あなたの会社は、来年度から日本で義務化が始まる「排出量取引制度」の対象になるかもしれません😟。この制度が始まると、CO2排出量が多い企業は、脱炭素投資を迫られ、企業経営の「死活問題」となります。EUや韓国ではすでに進むこの規制強化について、日本はどのようなルールを設計しようとしているのでしょうか?今回の配信では、このGX-ETS(グリーントランスフォーメーション・排出量取引制度)の詳細と、あなたの会社、そして私たちの生活に及ぼす影響について専門家が徹底解説!この記事を読めば、最新の脱炭素政策と今後の企業の動きがスッキリわかりますよ👍。
今回の配信内容🎧
今回の配信では、2025年度から日本で義務化が始まる排出量取引制度(GX-ETS)排出枠の割り当て算定方法の難しさに焦点を当てます。また、海外の先行事例と、企業のコスト増が私たちの生活に価格転嫁される可能性についても深掘りします。
日本で始まる排出量取引制度(GX-ETS)の概要と義務化の背景
GX-ETSとは?排出枠の市場取引の仕組み
GX-ETS(グリーントランスフォーメーション・排出量取引制度)とは、国が企業に無償で排出枠を割り当て、CO2排出量の実績がその枠を超過した場合に、排出枠を下回った企業との間で市場を通じて排出枠を売買できる仕組みのことです。
企業にとって、排出枠の取引がコスト増につながるということは、結果的に脱炭素技術の開発や導入に積極投資するインセンティブが働くことになります。これは、脱炭素社会の実現に向けた市場メカニズムの活用と言えます。
義務化の対象は年間10万トン超の企業
これまで政府は、この制度を試行期間として実参加制で実施してきましたが、来年度(2025年度)からは参加を義務化します。
義務化の対象となるのは、国内の直接排出量が年間10万トン以上の企業です。多くの大企業やエネルギー多消費型産業が対象に含まれることになります。
義務化の目的:2030年度の排出46%削減目標達成
政府がこの義務化に踏み切った最大の理由は、国が掲げる温暖化ガスの排出削減目標を達成するためです。政府は、2030年度の温暖化ガスの排出を2013年度と比べて46%減らすという高い目標を掲げています。
しかし、2023年度の実績では23.3%減にとどまっており、目標達成のためには企業の積極的な取り組みが不可欠であるため、排出量取引という形で「ムチ」を打つ必要があると判断されたわけです。
ここがポイント👌
GX-ETSは、国が割り当てた排出枠を市場で売買することで、CO2排出が多い企業に脱炭素投資を促す仕組みであり、2025年度からは国内の直接排出量が年間10万トン以上の企業に義務化されます。
企業の死活問題:排出枠の割り当てを巡る最大の論点
企業に割り当てる排出枠の算定が最大の争点
現在、GX-ETSのルールはまさに検討の真っ最中です。その中で最も大事な議論となっているのが、企業に割り当てる排出枠をどう算定するかという点です。
この割り当てを巡る問題は、参加が義務化される企業にとって「まさに死活問題」となります。
- 割り当てが少なすぎると…:企業の負担が大きくなりすぎ、国際的な競争力を失う可能性があります。
- 割り当てが多すぎると…:企業は脱炭素投資をしなくても枠内で収まってしまうため、制度導入の目的である脱炭素投資へのインセンティブが働かなくなってしまいます。
国は、このインセンティブと負担のバランスを見極める、非常に難しい制度設計を迫られています。(「このバランスを取るのが本当に難しい」(京塚編集長)という専門家の声からも、議論の複雑さが伺えます。)
海外の先行事例と日本の対応
排出量取引制度は、既に海外では義務化が進んでいます。先進事例としてよく取り上げられるEUだけでなく、お隣の韓国でも導入済みです。
日本は、これらの先行事例から多くのことを学べるという点で「幸運」であるとも言えます。国はなるべく混乱の少ない制度設計を進めようとしています。
企業のコスト増は価格転嫁されるのか
この制度は、最終的に私たちの生活にも影響を与える可能性があります。企業の負担があまりにも大きくなれば、そのコストが最終製品に価格転嫁される可能性があるからです。
日本の産業界からも、このルール設計によってコスト増を懸念する声が出ており、国は年内には詳細を全て決定するとしています。議論が本格化する秋にかけて、業界団体などの動きも活発化しそうであり、その経過を注意深く見ていく必要があります。
ここがポイント👌
GX-ETSの最大の議論点は、排出枠の割り当てをどう算定するかであり、この枠の設定は企業の脱炭素投資へのインセンティブとコスト負担のバランスを左右します。企業のコスト増は価格転嫁につながる可能性もあります。
【コラム】日本の「脱炭素」に吹き荒れる逆風とガバナンスの課題
洋上風力発電:制度設計の失敗が招いた事業撤退
再生可能エネルギーの柱として期待される洋上風力発電では、制度設計の失敗が事業撤退を招きました。三菱商事は、秋田県と千葉県の沖合で計画していた事業から撤退しましたが、これは、電気の売電価格(買取価格)が業界水準よりあまりに安かったため、資材価格の高騰も相まって事業採算が合わず、500億円余りの損失を出したことが原因です。
この三菱商事の撤退により、国の風力発電の拡大計画そのものが停滞する恐れが出ています。これは、政府の固定価格買取制度(FIT)からFIP制度への切り替えなど、制度変更が複雑かつ不十分だったことも影響しています。
環境規制PFASへの対応の遅れ
また、半導体や医療分野に不可欠な素材であるPFAS(有機フッ素化合物)に関する規制への対応も、日本では遅れが指摘されています。
PFASは健康被害の懸念から欧米が規制に動いていますが、日本では半導体メーカーが規制対応で遅れており、欧米だけでなくアジア諸国と比較しても取り組みが遅れているという指摘があります。PFASの代替技術の研究開発や浄化技術の推進が、今後さらに重要になっていくと考えられます。
GX-ETSについても、ルール次第で効果的な制度となるか、骨抜きとなるかが決まります。仮に日本の脱炭素目標を大きく下回る制度設計となれば、海外からの批判にも繋がりかねないため、政府には慎重かつ抜本的な対応が求められます。
ここがポイント👌
日本のGX推進には逆風が吹いており、洋上風力発電では政府の買取価格の安さ(制度設計)が原因で三菱商事が撤退し、PFAS規制への対応も欧米やアジア諸国に比べて遅れているなど、排出量取引制度においても制度設計の成否が重要です。
この記事をまとめると…
日本で来年度から排出量取引制度(GX-ETS)の義務化が始まり、国内の直接排出量が年間10万トン以上の企業が対象となります。これは、2030年度の温暖化ガス排出46%削減目標を達成するために、企業に脱炭素投資を促すための施策です。現在、最も重要な論点は企業への排出枠の割り当て算定方法であり、これが少なすぎれば企業の負担が、多すぎれば脱炭素インセンティブが削がれるというジレンマがあります。既にEUや韓国で先行する海外事例を参考に、国は年内に詳細を決定する方針ですが、企業のコスト増は最終製品に価格転嫁される可能性もあり、今後のルール設計が注目されます。
配信元情報
- 番組名:日経プライムボイス
- タイトル:日本で排出量取引。義務化。あなたの企業の排出枠はどうなる
- 配信日:2025-08-06


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