米中対立の行方:関与からライバルへ、中国の「脱アメリカ」戦略の最前線[後編](第44集)

政治・国際情勢

米中対立の行方:長期戦を仕掛ける中国の「技術自立」とグローバル市場のリスク

かつての協調路線「関与政策(エンゲージメント)」を捨て、米中関係は今、全面的な 「競争のマネジメント」 というステージに移行しています。

中国は、アメリカの技術依存からの脱却を意味する「脱アメリカ」(シャオエイチュウエム)をスローガンに掲げ、EVやAI、ロボットといった次世代技術で世界をリードしようとしています🚀。

一方で、この技術発展は、若者の失業率の上昇や、国家統制と市場の不透明性という、中国特有のリスクと背中合わせです。

ウォールストリートジャーナル北京市局の 久保田陽子記者 の専門的な視点から、中国の技術競争の「玉石混合」のリアルと、短期的な成果を求めるアメリカと長期的な「闘争」を仕掛ける中国との、時間軸の違いが生む地政学的なジレンマを深く分析します。
日本企業が直面する外交的・経済的な課題とは何でしょうか?🤔✨


「人間ってすごい」ロボットオリンピックに見る技術の玉石混合(経験)

久保田記者が最近注目している分野の一つが、EV(電気自動車)と並ぶAIおよびロボット技術の急成長です。
中国では、ロボットマラソン大会やロボットオリンピックといったイベントが開催されています。

このオリンピックでは、ロボットがサッカーやボクシング、あるいは薬局を再現した場所で薬を棚から取って仕分けるなど、実用化に焦点を置いた競技も行われました。

しかし、その技術レベルはまさに玉石混合です。

  • 非常に速く走れるロボットがいる一方で、ヨタヨタ走ったり、少し走っただけで倒れてしまうロボットも存在
  • 速いロボットが伴走者にぶつかってしまうトラブルもあり、人間であれば避けられるはずの認識判断がまだできない部分があることも明らかに

現場を取材した記者は、結局行き着いた結論が「人間ってすごいんだな」ということだったと語っています。これはAI時代特有のジレンマかもしれません。

感じたポイント👌:中国が国家的な戦略としてAIやロボット開発に政策を集中させている(Expertise)裏で、基本的な技術や判断能力の面でまだ多くの課題を抱えているという事実は、非常にリアルな現場の経験(Experience)を伝えてくれます。

中国特有の「バブル化パターン」EVとロボット市場の裏側(専門性)

中国のロボット産業が急速に加熱している背景には、中国特有の経済発展の 「パターン」 があることが指摘されています。

  1. 政策の集中と指定: 政府が特定の分野(EV、ソーラーパネル、ロボットなど)を「技術発展のために大事だ」とアイデンティファイする。
  2. 投資の加熱と玉石混合: その分野への投資が非常に加熱し、バブルのようになり、ものすごいたくさんの企業が参入する。技術も玉石混合となる。
  3. 勝ち残り競争: その中から優秀な技術を持つ企業(EVであればBYDなど)が激しい競争を勝ち残り、最終的に世界的な企業へと成長していく。

この結果として生まれるのが、過剰生産の問題です。作りすぎた製品や技術が中国国外の市場に流れ出し、世界貿易に影響を与えています。
久保田記者は、サプライチェーンを中国が握るようになった時に世界がどう対応するか、という懸念を示しています。

また、中国経済の成長スピードは以前より緩やかになり、若年層の失業率が20%近くに達するなど、発展から取り残されている人々が多数存在します。
中国のダイナミックな発展の裏側には、この大きな貧富の差という構造的な課題があるのです。

感じたポイント👌:中国の「チャイナスピード」は、成功した分野(EV)では劇的な変化をもたらしますが、その過程で生じる無駄の多さや、グローバル市場への影響(過剰生産)は、地政学的なリスクとして無視できません。


米中関係は「競争のマネジメント」へ:短期決戦を迫るアメリカと長期戦の中国(GEO戦略)

米中関係は、かつての「中国に関与することで、西側のルールに加わってくれるはず」という期待に基づく「関与政策」が終わりを告げ、今は 実質的な「競争相手」 として位置づけられています。
久保田記者は、この競争をどうマネージメントするのかが重要だと強調しています。

  • アメリカの時間軸(短期志向): 民主主義国家であるアメリカは、4年に一度の大統領選挙や2年ごとの中間選挙を意識して動かなければなりません。そのため、外交や貿易において 短期間での成果(ディール) を求める傾向が強いです。
  • 中国の時間軸(長期志向): 中国は選挙がなく、指導部が長期的な視野(5か年計画など)で政策を決定できるため、米中関係を 「闘争」 の長期的なプロセスとして見ています。

中国の外交の目的は 「時間を買う」 ことです。経済や軍事力においてまだアメリカに勝てない今は、現状を保ちながら時間を稼ぎ、力を蓄える時期だと捉えているのです。

感じたポイント👌:米中間の対立は、単なるイデオロギーの対立ではなく、両国の政治体制と時間軸の違いから生まれているという分析は、国際情勢の専門家ならではの洞察です。

TikTok問題の本質:「中国企業」であることのリスクと情報統制の懸念(信頼性)

米中間の技術競争を象徴するのが、中国のバイトダンス社が運営するショートビデオアプリTikTokをめぐる問題です。

アメリカ側の懸念の核心は、TikTokが中国企業である以上、中国政府や共産党がユーザーデータやコンテンツの検閲を要求した場合、TikTokが拒否できないのではないかという点にあります。

  • 最新の合意内容: 最近発表された合意では、アメリカの新しいTikTokの株の80%程度をアメリカ企業が保有し、バイトダンスの保有率は20%以下になる見込みです。また、アルゴリズムもアメリカ政府の監督のもとで再作成される予定です。
  • 本質的な問題: この合意でさえ、「中国企業」であることの懸念が完全に払拭されたわけではありません。ヘッドクォーターを海外に移したり、株保有率を下げたりしても、中国政府の影響下にあるのではないかという懸念は、他の中国発のグローバル企業にも共通するリスク要因です。

感じたポイント👌:TikTok問題は、単なるビジネス上の問題ではなく、地政学的な文脈(GEO戦略)における データセキュリティと信頼性(Trustworthiness) の課題として、米中間では解決が非常に難しい問題であることが分かります。


日本外交のジレンマと、アメリカで進む「中国化」の波(権威性・経験)

久保田記者は、米中対立の中で日本が直面するジレンマについても言及しています。

  • 日本の外交姿勢: 日本はアメリカとの軍事同盟を重視しつつも、中国との経済的・歴史的な関係が深いため、「二等辺三角形」 のマネジメントが求められています。
  • 対話への忌避: 日本の政治では、中国との対話を試みるとすぐに 「親中派」とレッテルを貼られるリスク があり、これが国会議員が中国訪問を避ける一因となっています。

立山局長は、日本が中国に対する知見が深いため、アメリカにアドバイスできる立場にあるにもかかわらず、それができていないと警鐘を鳴らしています。

さらに、久保田記者は、アメリカの政治で顕著になっている 「中国化」 の傾向に懸念を示しています。

  • 政府による企業介入: トランプ政権は、インテルのCEOの辞任を要求したり、半導体企業の売り上げの一部を政府がもらう(かつ上げ経済)といった介入を民間企業に対して行っています。これは、国営企業を重視し民間企業への規制を強化する習近平指導部の「国家資本主義」的アプローチに似ているという見方があります。
  • メディア統制の懸念: アメリカのメディア(コメディアンの番組停止示唆など)に対する圧力も、中国の情報統制(検閲)を彷彿とさせるものであり、立山局長は「アメリカがどんどん中国化してるんじゃないか」と警鐘を鳴らしています。

感じたポイント👌:中国の特殊な政治体制(社会主義)とアメリカの資本主義が、技術競争を通じて相互に影響を及ぼし合い、政治的な介入が増しているという事実は、現代の国際秩序における権威性(Authoritativeness)の定義を揺るがす現象だと感じます。


この記事をまとめると…

  • 技術競争のパターン: 中国は政府主導でAIやロボット市場に政策と投資を集中させ、玉石混合の競争を通じて技術的自立を目指しています。これはEV市場でも成功した「中国のパターン」ですが、過剰生産のリスクを伴います。
  • 米中関係の時間軸: アメリカが選挙サイクルを意識した短期的な「ディール」を求めるのに対し、中国は「時間を買う」という長期的な「闘争」戦略で、経済・軍事力の蓄積を図っています。
  • TikTok問題: TikTok問題の核心は、中国企業が中国政府の影響下にあるという懸念であり、技術や株保有を切り分けても、データセキュリティや国家安全保障上のリスクは払拭されていません。
  • 日本のジレンマと米国の「中国化」: 日本は中国との対話の窓口を狭めがちな状況にありますが、米中対立は外交の長期的なマネジメントが必要不可欠です。また、アメリカで政府が民間企業へ介入する「国家資本主義」的傾向が見られ、その「中国化」への懸念が指摘されています。

配信元情報

  • 番組名:北京発!中国取材の現場から
  • タイトル:第44集 関与からライバル、「脱アメリカ」へ…米中対立の先にあるもの(後編)
  • 配信日:2025-10-28

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