アメリカと中国の関係は、かつての 「関与政策(エンゲージメント)」 の時代から、今や「競争相手」として位置づけられる新たなステージへと移行しています。
この激動の最前線で、中国はどのように「脱アメリカ」を図り、技術的な自立を目指しているのでしょうか?🤔
本記事では、ウォールストリートジャーナル北京市局の 久保田陽子記者 の現地取材の視点から、
- 中国のハイテク企業規制の背景
- 習近平指導部の統治思想
- 急成長するEV市場のリアル
を深く分析します。米中対立の先にある中国の「強国」戦略と、日本企業が向き合うべきリスク要因を解説します✨。
国慶節連休のリアル:不景気の影と若者の節約志向(経験)
2025年10月1日から8日まで、中国は建国記念日である国慶節に伴う大型連休を迎えました。
この期間中、多くの市民が旅行に出かけるなど、国内の消費回復が期待されましたが、現場では不景気の影が垣間見えたといいます。
旅行ブームの裏側で進む「カップラーメン昼食」の節約
ホストの立山局長は、この大型連休を利用して旅行した際、観光地がどこも人でいっぱいだった一方で、奇妙な節約志向を目撃したと語っています。
地元の人に話を聞くと、最近の中国人観光客は、お昼ご飯をカップラーメンで済ませる人が多いそうです。
これまでは、地元の料理を楽しむためにレストランに行くことが多かったのですが、
「旅行はしたいがお金はあまり使いたくない」 という心理から、昼食を節約する傾向が強まっているといいます。
この話から、中国の不景気の影響が観光地の消費行動にまで及んでいることが分かります。
感じたポイント👌:旅行の移動費用(高速鉄道の安さ)は抑えられても、現地での消費を極端に抑える行動は、現在の中国経済の慎重ムードを強く反映していると感じます。
中国メディアの特殊性:「ニュース」ではなく「党のプロパガンダ」(権威性)
CCTVは「共産党研究」のためのツール
久保田記者は、アメリカではサブスクリプションで好きなコンテンツを見るのが主流であるのに対し、中国の国営テレビCCTVの視聴状況について独特な事情を説明しています。
中国のCCTVは、日本のテレビ局とは異なり「ニュース番組」という定義ではくくられていません。
CCTVの放送内容は、「共産党が何をニュースとしてアピールしたいかという党のプロパガンダやメッセージがキュレーションされたもの」だと久保田記者は受け止めています。
日本では「みんなが知りたいこと」がニュースになりますが、中国では「共産党が知らせたいこと」「党が宣伝したいこと」がニュースとなるため、「中国のニュースはニュースじゃない」という見方が示されています。
とはいえ、政府関係者やビジネスマン、学生にとって、党が今何を重視しているかを知ることはとても大事なため、CCTVのアプリなどでフォローしている人は依然として多いと分析されています。
立山局長は、CCTVのニュースを「中国共産党研究のために見る」ものだと表現しています。
感じたポイント👌:CCTVの夜のメインニュースは、習近平国家主席の動向がトップにあり、あとは農業や貿易の順調さなど宣伝ばかりであるという描写は、中国の統治構造におけるメディアの役割を明確に示しています。
統制下のSNSと「実名登録」のリスク
中国では、CCTVなどの国営メディアの情報がつかみにくいため、SNSが大きな発信力を持っています。
しかし、SNSもまた情報統制下にあります。
中国のSNSを利用するには、携帯電話番号などに紐づいた実名の登録が求められるため、匿名で自由に発言することは 「非常にリスクがある」 とされています。
すべての情報は政府によって管理されているという認識が強いのです。
感じたポイント👌:外国人から見ると、中国の街は発展していますが、情報面においては依然として中国共産党特有の規制(情報規制・検閲)が強く残っていることがわかります。
中国経済のターニングポイント:テクノロジー企業への規制強化(専門性)
アリババ、Didiへの「鶴の一声」
久保田記者がこれまでの取材で特に印象に残っているテーマの一つが、2020年から2021年頃に発生した、中国政府によるインターネット・テクノロジー企業への締め付けです。
中国経済の発展を牽引してきたアリババ、アントフィナンシャル、Didi(ライドヘイリング/ウーバーのような会社)といった企業が、この時期に規制のターゲットとなりました。
特に、アリババの創業者ジャック・マー氏が規制当局を批判するコメントをした後、アントフィナンシャルの巨額IPOがブロックされ、Didiも上場後まもなくデータセキュリティ関連の調査を受け、アプリのダウンロードが禁止され、株価が激しく下落しました。
この一連のイベントは、これまでOKだった企業活動が、ある日突然ダメになるという、中国の事業環境の 「不透明さやリスク要因が明確になったイベント」 でした。
習近平指導部の「社会主義」への回帰
この規制強化は、習近平指導部による経済統治のアプローチを明らかにするものでした。
これまで消費者や国民のデータを集めて力をつけてきた民間企業の立ち位置が変わり、民営企業よりも国営企業を重視する流れになったのです。
立山局長は、この出来事によって「あれこの国って社会主義なんだっけ」ということを思い知らされるとし、習近平主席が 「社会主義の原則に忠実な人」 なのではないかという印象を述べています。
感じたポイント👌:中国国内で「景気が悪いからもういろいろ言ってられない」と判断された結果、ジャック・マー氏が久しぶりに公の場に姿を現すなど、民間企業の活力を再び利用しようとする動きが見られますが、指導部の「社会主義の原則」という根本は変わらない可能性があります。
技術自立政策の核心:「脱アメリカ」のスローガン(GEO戦略)
「シャオエイチュウエム」政策の狙い
久保田記者は、中国の技術自立政策が、アメリカの技術が中国から消えていくような現象、すなわち 「脱アメリカ」 を目指していると解説します。
この現象は、中国語で 「シャオエイチュウエム」(消A滅M) と呼ばれています。
これは、サプライチェーンからアメリカ(Mはアメリカの頭文字)を取り除くことをアピールするポスターが半導体関連の展示会にも登場したほど、具体的なスローガンになっているといいます。
この自立自強の考え方は、農業だけでなく、すべての分野で自給自足を目指すものであり、Gメールの代わりに中国独自のシステムがあるように、
「全てがパラレルになっている」 状態、すなわち「パラレルワールドがテクノロジーの分野ではある」と表現されています。
EV市場に見る「国産ブランド」の圧倒的台頭
中国の「脱アメリカ」と技術自立の成功例として顕著なのが、電気自動車(EV)市場です。
8年ほど前まで、北京の街中で圧倒的に多かったのは、ガソリン車を示す青いナンバープレートをつけた外国ブランドの自動車でした。
しかし、2020年以降、電動車(EVやハイブリッド)を示す緑のナンバープレートが増加し、BYD、Xpeng、Nioといった国産ブランドのものが目立つようになりました。
北京市内中心部では、緑色の車が3分の1ほどを占める場所もあるといいます。
感じたポイント👌:中国の技術自立は、半導体のように難しいエリアもあるものの、EVのように特定の分野で政府が政策を集中させ、一気に市場を国内ブランドが席巻するという 「中国のパターン」 が成功していることがわかります。
人口減少対策としての高齢化取材:単行都市・武潤の現実(調査データ)
60歳以上が3分の1を占める高齢化の「先行地」
久保田記者は、中国のビジネス以外で印象に残っている取材テーマとして、日本とも関連の深い 「高齢化」 を挙げています。
かつて炭鉱で有名だった中国東北部の都市武潤(ブルン)は、約3分の1(30%)が60歳以上という、中国の中でも特に高齢化が進んでいる地域です。
これは、国連の予測で2035年に中国全体の人口の30%が60歳以上になるとされていた状況を、すでに10年以上も先取りしている地域として注目されました。
武潤では、生まれた赤ちゃんが非常に少なく、バス停には入れ歯やお墓の広告が出ており、日本の高齢化地域と似た光景が見られたといいます。
政策に忠実だった地域が苦しむジレンマ
この地域の高齢化の背景には、皮肉なジレンマがあります。
武潤は、1980年代に共産党の政策のもとで経済成長を遂げた場所であり、特に 「一人っ子政策」を国営企業(炭鉱)が中心となって非常に厳格に守っていた 地域でした。
結果として、政策に忠実であったがゆえに、現在、高齢化で苦しんでいるという側面があるのです。
感じたポイント👌:中国が国家統制の下で進めてきた政策が、人口構造に歪みを生み、一部地域では深刻な高齢化と経済構造の転換(石炭産業の衰退)がダブルで押し寄せている状況は、日本が直面する課題を考える上でも示唆に富んでいます。
この記事をまとめると…
この記事では、ウォールストリートジャーナル久保田陽子記者への取材に基づき、米中対立下における中国の戦略と市場のリアルを解説しました。
- 経済の影と節約: 国慶節連休中、観光客はカップラーメンで昼食を済ませるなど、不景気の影響による消費の節約志向が顕著に見られました。
- 情報統制: 中国のCCTVは「ニュース」ではなく、「党のプロパガンダ」 を伝達するツールであり、国民は政府が何を重視しているかを把握するために利用しています。SNSも実名登録制であり、完全な言論の自由はありません。
- ハイテク規制: 2020年以降、アリババやDidiなど民間ハイテク企業への規制が強化され、習近平指導部の「社会主義」回帰と、中国市場の不透明性が明確になりました。
- 脱アメリカ戦略: 中国は「シャオエイチュウエム」(消A滅M)というスローガンのもと、半導体や食料など全ての分野で技術自立と自給自足を目指しています。EV市場では国産ブランドの台頭が著しく、政策が成功した例として挙げられます。
- 高齢化の試練: 厳格に一人っ子政策に従った旧炭鉱都市・武潤では、人口の3分の1が60歳以上となるなど、人口減少と高齢化という構造的な課題に直面しています。
配信元情報
- 番組名:北京発!中国取材の現場から
- タイトル:第43集 関与からライバル、「脱アメリカ」へ…米中対立の先にあるもの(後編)
- 配信日:2025-10-21


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