皆さん、想像できますか?
1746年、フランス・パリの修道院の前で、一人の神父が200人もの修道士を丸く並べていました。
彼が行ったのは、全員に強い電流をバチーンと流し、その全員が絶叫するまでの時間を計測するという、聞いただけでは拷問のような衝撃的な実験です。
しかしこの非人道的に聞こえる実験こそが、のちにモールス信号や現代のインターネット通信へと繋がる、電気通信の歴史の決定的な第一歩となったのです。
なぜ、電気通信という世界を変える発明が、このような「残酷な好奇心」から始まったのでしょうか?
この記事では、当時の情報環境の遅さと、この実験の持つ科学的な意味、そして電気通信の礎を築いた「愚か者」の登場を解説します。
19世紀、人類が情報に飢えていた時代
電気を使って情報を送るという画期的なアイデアが生まれるまで、人類の情報伝達速度は驚くほど遅延していました。
紀元前850年頃のアッシリア帝国では、ラバー(走者)を使った手紙の高速運搬システムが確立されており、その速度はなんと2000年間も破られなかったという逸話があります。
しかし、近代に入っても情報遅延は深刻でした。
アフリカの事件は「8週間遅れ」の速報
イギリスの『タイムズ紙』は、創刊(1785年)以来、速報性にこだわっていた一流の新聞です。
彼らは最速でニュースを届けようと努力した結果、アフリカで起きた事件を「8週間遅れ」で掲載するのが限界でした。
これは、遠方のニュースが船で運ばれてくるため、どう頑張っても2ヶ月の遅延は避けられなかったからです。
隣町のニュースをパクり合う情報伝達
さらにひどいのは、一般的な新聞の状況です。
当時の新聞は、隣町の新聞の内容をそのままコピーして載せていたといいます。
隣町もまたその隣町の新聞をコピーするという連鎖が起き、面白いニュースはゆっくりと町から町へ移動し、離れた場所では半年遅れのニュースが「速報」として扱われることもあったそうです。
感じたポイント👌:
現代の我々が情報過多で苦しむのに対し、当時の人々は数ヶ月前の情報に飢えていました。
この「情報遅延」こそが、電気通信が革命的な発明となり得た最大の背景ですね。
ノレ神父の実験:電気は「瞬時」に伝わるのか?
世界を変えるアイデアは、「電気で情報を伝えられたら、どんなに遠い人にでも瞬時に送れるのでは」という仮説でした。
しかし当時、科学者たちは「電気は本当にそんなに早く伝わるのか?」という根本的な疑問に対する答えを持っていませんでした。
1.6キロメートルの輪と200人の修道士
1746年に登場したのが、ノレ神父(ノレ・アベ)です。
彼は約1.6キロメートル(1マイル)の導線の輪を作り、200人の修道士に金属の線を持たせました。
実験は、結果を歪めないように一切の予告なしで行われました。
神父が強い電流を流すと、200人の修道士は、電気が伝わったタイミングとほぼ同時に絶叫したのです。
実験の科学的な意義
ノレ神父の本来の動機は、電気通信ではなく、単に「電気の速さ」を知る好奇心だったようですが、この実験は「電気はほぼ瞬時に伝わる」(光の速さと同じ速さ)という決定的な事実を証明しました。
これにより、電気を情報通信に使えるという確信が生まれ、ボルタ電池の発明(約50年後)と相まって、電気通信の技術開発競争が始まります。
感じたポイント👌:
実験は残酷ですが、結果を調整させないよう予告なしに行うなど、科学的な厳密さを保とうとしていた点は、当時の探求心の強さを示しています。
長距離伝送の壁と「愚か者」モールスの登場
ボルタ電池が発明され、電気を比較的簡単に扱えるようになると、科学者たちはすぐに電気通信の可能性に熱狂し、設計を試み始めました。
賢人たちを悩ませた技術的な壁
しかし、電気通信の実用化において、すぐに大きな技術的な問題に直面します。
それは、「長距離にすると電流が弱まってしまい、ある距離以上は情報を送れない」という壁でした。
多くの科学者は、この壁を前に「実用化は無理かもしれない」と諦めかけていたといいます。
金儲けに失敗した「ダメ商売人」の登場
この状況を打開したのが、一人の「愚か者」でした。
彼の名はサミュエル・モールス。
モールスは、科学者ではなく、儲け話に次々首を突っ込んでは失敗を繰り返す、典型的な「ダメ商売人」でした。
彼は美術教育を受けていたにもかかわらず、本業ではなく、彫刻のレプリカを自動生成で大量に作って売るビジネスや、ルーブル美術館の絵画全てを1枚のキャンバスに模写し「ファスト教養」として展示料を取るビジネスなど、金儲けのアイデアばかりを考えていました。
当時の彼は、賢人たちが長距離伝送の技術的な壁を知って諦めていたという事実を一切知らなかったのです。
彼のこの「リサーチ不足による愚かさ」と、商売人としての貪欲な「熱狂」が、技術的な常識に囚われず、後に世界標準となるモールス信号を生み出すことになります。
感じたポイント👌:
常識やリサーチが、時に新しい発明の妨げになるという、逆説的な教訓が学べます。
モールスは、技術的な困難を知らなかったからこそ、一本の線で通信するという究極のシンプルさを追求できたとも言えそうですね。
この記事をまとめると…
電気通信の歴史は、1746年にノレ神父が行った200人の修道士による電流実験という残酷な好奇心から始まりました。
この実験で電気が瞬時に伝わる事実が証明され、長距離通信への期待が高まりました。
しかし、長距離で電流が弱まるという技術的な壁により、多くの科学者が実用化を諦めかけます。
この難題に、美術品のレプリカ販売などを試みていた「愚か者」サミュエル・モールスが挑み、
彼のリサーチ不足と金儲けへの熱意が、のちの通信革命へとつながっていきました。
配信元情報
番組名:ゆる科学コンピュータ
タイトル:電気通信の歴史は、神父の残酷な実験から始まる。#151
配信日:2024年11月24

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