「◯◯効果」現象野郎が集めた四つの心理法則:AI虐待からジンクピリチオン効果の真相まで

ウェブサイトや技術の現場で遭遇する「不可解な現象」や「人間の非論理的な行動」には、たいてい名前がついています

Podcast「ゆるコンピュータ学ラジオ」の人気企画「効果現象野郎」が、実に1年半の時を経て復活!今回は、チャットAIを叩いてしまう心理的反応から、複数の証言が食い違う社会現象まで、四つの「効果・現象・法則」を徹底解説します。

リスナーからの熱い投稿(ただし、ほとんどが前回の放送直後だったようですが、大変申し訳ございませんでした!)をもとに、私たちが日常で無意識に行っている行動の背後にある心理を深掘りします🤔✨。これらの知識を身につけ、技術や現象との適切な付き合い方を学びましょう。


導入—なぜ人は「効果」や「現象」に名前を付けたがるのか

この「効果現象野郎」のコーナーは、「何とか界のT型フォード」のように、世の中に散らばる「ある概念を説明する比喩」や「共通して起こる現象」を集めたいというホストの欲求から生まれました。

情報収集のフォームに届いた投稿の多くが1回目の動画投稿直後に限られていたという事実に対し、ホストたちは「リスナーの皆さんもどうせコイツが集めるだけ集めて放置するんだろうと思っていたんでしょうね」と反省の弁を述べています。

感じたポイント👌:1年半もコーナーを温めてしまう現象、これもまた「ゆるコンピュータ学ラジオ現象」と名付けてもいいかもしれませんね!

第1の法則:PCを叩いてしまう人間の感情「ルーベリン反応」

ルーベリン反応とは

まもるんさんからの投稿で、コンピュータ関連の概念として「ルーベリン反応」が紹介されました。

ルーベリン反応とは、コンピュータが認識処理、特に自然言語処理を失敗した際に、人間が感情的に拒否反応を示すという心理的な反応のことです。

この拒否反応は、「単なるプログラムの処理ミス」として片付けられる以上に、人間が感情的に反応してしまうことが特徴です。チャットGPTのような生成AIは人間っぽいからこそ、「全然わかってくれないんだ、こいつ」となって、拒否反応を示しやすくなるようです。

このルーベリン反応に起因して、イギリスのノバテック社による調査では、4台に1台のコンピューターが使用者により叩かれたり蹴られたりといった虐待を受けていると報告されています。

T型フォードを巡るAIとの攻防

ホスト自身も、昨晩、このルーベリン反応を体験したばかりだと語ります。

彼は、「IBM 650」がコンピューター界のT型フォード(廉価版で庶民に初めて行き渡ったものの比喩)と言われているのを知り、「何とか界のT型フォード」という表現を収集したいと思い立ちます。

GoogleのAI(ジェミニー)に、この例えの実例を挙げるよう聞いたところ、AIは「何とか界のT型フォードというのは広く行き渡ったものに対して使える比喩であると考えられます。従ってiPhoneなどはスマートフォン界のT型フォードなどということができます」という、一般論と推測を返してきました。

ホストが「言えるかどうか俺がジャッジするからじゃなくて実際言われた例があるかどうかを教えてくれ」と求めても、AIは同じような返答を繰り返した結果、ホストはディスプレイに「ああ、もういいよ」と吐き捨ててしまったそうです。

(ただし、ホストは、実際に「もういいよ」と言ったのはフィクションであり、検索をかけてうまくいかなかったところまでが本当だと明かしています。)

感じたポイント👌:AIが中途半端に賢いからこそ、「全然わかってくれねえわ」と人間が感情的になってしまう。このジレンマこそ、AI時代特有の現象ですね。

第2の法則:視点によって真実が歪む「羅生門効果」

羅生門効果とは

スモールボイスさんからのお便りで、「羅生門効果」が紹介されました。

羅生門効果(ラショウモン・エフェクト)とは、一つの出来事において人々がそれぞれに見解を主張することによって矛盾してしまうことを指します。

この効果は、芥川龍之介の小説『羅生門』ではなく、黒澤明監督の映画『羅生門』から命名されました。この映画では、複数の登場人物がそれぞれの視点で物語を語る(証言者が全員違うことを言っている)という構造が取られています。

『羅生門』の複雑な出自

ホストたちは、この羅生門効果が本来、芥川龍之介の『藪の中』(被害者、加害者、目撃者が三者三様の証言をして、事件の捜査が行き詰まってしまう構造)に由来するのではないかと疑問を呈します。

調べた結果、黒澤明監督の映画『羅生門』は、芥川龍之介の『藪の中』を原作としており、タイトルや設定の一部を同じく芥川の短編『羅生門』から拝借して作られたことが判明しました。

つまり、羅生門効果の構造(多視点からの矛盾)は『藪の中』由来だが、名称は黒澤映画の『羅生門』から来ていたのです。

この複雑な出自に対し、ホストたちは「なんでそんな複雑なことしたんだ?」「素直に『藪の中』を劇場にしたらいいんじゃないの?」と、このタイトル命名の経緯自体が「藪の中」であると結論づけています。

感じたポイント👌:一つの現象に名前を付ける際にも、その命名の背景がこれほど複雑に絡み合っているとは驚きです。この「命名の藪の中」自体が、また一つのミステリーですね。

第3の法則:響きだけで納得させる魔力「ジンクピリチオン効果」

ジンクピリチオン効果の提唱

ヘノヘノモヘージさんからのお便りは、一言だけ「ジンクピリチオン効果」という非常にソリッドな内容でした。

ジンクピリチオン効果とは、どのようなものか分からないのに、言葉の響きだけですごそうだと思ってしまう心理的な反応のことです。

この事例は、花王が日本で初めてジンクピリチオン配合シャンプーの「メリット」を発売した際、キャッチコピーに「ジンクピリチオン配合」と銘打ったことに由来します。消費者は、ジンクピリチオンが何を意味するか分からなかったにもかかわらず、「すごそうだ」と思って購入した結果、ヒット商品になりました。

この事例から、小説家の清水義則氏が自身の論考の中でこの現象を「ジンクピリチオン効果」と命名しました。

雰囲気で納得してしまう消費者心理

ホストたちは、この現象が日常生活にあふれていることを指摘し、「銀イオン配合」のボディシートを例に議論を展開しました。

  • 活性炭(炭)配合: 炭は多孔質(穴がいっぱい空いている)の物質であり、匂い物質を吸着(閉じ込める)する効果があるため、消臭効果があることが科学的に説明できる。
  • 銀イオン配合: 一方、銀イオンは穴が開いているわけではないため、なぜ消臭効果があるのか疑問に感じられるが、実際には雑菌の増殖を防ぎ、雑菌による腐敗臭を抑止する働きがあることが分かりました。

しかし、多くの消費者は、このメカニズムを理解しているわけではなく、「銀イオン」という響きだけでなんとなくすごそうだと感じている点で、ジンクピリチオン効果が働いていることが示されました。

味覚にも潜むジンクピリチオン効果

この「雰囲気で判断する」現象は、嗜好品の世界でも顕著です。

  • ウイスキーの熟成年数: 10年熟成と15年熟成の飲み比べをしても、解説を読む前に飲むと、ブラインドで違いを当てる自信がない。
  • ビールのホップ: シングルホップのIPAを飲んでホップのキャラクターを掴んだつもりでも、酵母や麦芽の種類によって味が変わり、結局「雰囲気でモザイクホップっぽい」と判断している可能性がある。
  • コーヒー豆: 「モンスーン系の豆」が歴史的な理由で独特のうま味を持つと聞いて飲んだら、「なんかちょっと劣化したような味がしていいもの飲んだなと思ったんだけど、後から調べたら今の輸送技術が発達してるから俺が飲んだのは別に劣化してなかった」という、完全にジンクピリチオン効果に陥っていた経験も語られました。

感じたポイント👌:人は専門的な言葉や歴史的な背景があると、それを裏付ける味や効果を勝手に感じ取ってしまう。「ブショネ」という言葉も、本来は汚染されたコルクが原因の劣化に限定されるのに、なんでもかんでも使われがちだという指摘は、耳が痛いですね。

第4の法則:予測は常に外れる「ホフスタッターの法則」

ホフスタッターの法則とは

大橋さんから寄せられた「ホフスタッターの法則」は、見積もりの難しさを再帰的に示す法則です。

ホフスタッターの法則とは、「いつでも予測以上の時間がかかるものであるホフスタッターの法則を計算に入れても、ホフスタッターの法則は有効である」という再帰的な法則です。

これは、プロジェクトの見積もりやタスクの完了時期を予測する際、人間がその予測自体にかかる時間や遅延の可能性を考慮に入れても、結局その予測すら外れてしまうという、人間の認知の限界を示しています。

法則の背景

ホストは、過去の放送で、ソースコードの90%を書くのに90%の時間がかかり、残りの10%を書くのにさらに90%の時間がかかるという「90対90の法則」を紹介しましたが、これも同じ話であると述べています。

この法則は、AIの研究者であるホフスタッター氏の著書の中で、人間の認知が再帰という手法によって無限の概念を厳密に扱うことができるという主張に関連して、アイロニカルに紹介されました。

ビジネスの場で紹介されるときは、この再帰的な面白みが省略されてしまうことが多く、ホストは「何の面白みもないものに成り下がってるのがちょっと悔しかったりします」とコメントしています。

感じたポイント👌:予測が外れることを織り込んでも予測が外れる。これはエンジニアやプロジェクトマネージャーにとって、非常に耳が痛い真実でしょう。法則の定義自体がアイロニーを含んでいる点が魅力的です。


この記事をまとめると…

  • ルーベリン反応: コンピュータ(AI)の処理失敗に対し、人間が感情的な拒否反応を示す心理現象。AIの人間らしさが拒否反応を強める原因となる。
  • 羅生門効果: 一つの出来事に対し、複数の視点が主張され矛盾が生じる現象。黒澤明監督の映画『羅生門』に由来する(映画の原作は芥川龍之介の『藪の中』)。
  • ジンクピリチオン効果: 意味が分からなくても、言葉の響きだけで「すごそうだ」と感じ、購入や判断をしてしまう消費者心理。
  • ホフスタッターの法則: いつでも予測以上の時間がかかる法則を計算に入れても、なお予測は外れてしまうという、再帰的な性質を持つ見積もりの法則。

これらの事例から、強固に見える技術システムや論理的な判断の背後には、常に人間の感情や認知のバイアスが影響していることがわかります。


配信元情報

  • 番組名:ゆるコンピュータ科学ラジオ
  • タイトル:「◯◯効果」「◯◯現象」を全部集めたい男たち【効果現象野郎2】#149
  • 配信日:2024年11月10日

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