コンピュータの父、チャールズ・バベッジが蒸気船17隻分の国家予算を投じた世界初のコンピュータ開発プロジェクト。
この壮大な計画は、最先端の技術的な限界ではなく、職人との報酬交渉や工作機械の所有権といった、極めて凡庸な「人間ドラマ」によって頓挫しました。本エピソードでは、現代のプロジェクトにも通じる、天才の失敗原因からビジネスの教訓を学びます。
「世界初のコンピューターが完成しなかった理由と全く一緒です」
💰 天才バベッジの功績:蒸気船17隻分の資金調達
チャールズ・バベッジは、挫折したとはいえ、その功績は現代の科学界のあり方を変えるほど偉大でした。
科学界の腐敗に立ち向かう
彼が入学した頃のイギリス科学界は、ニュートンの時代から遅れ、大学や王立協会(ロイヤルソサイティ)は腐敗し、高級サロン化していました。バベッジはこうした保守派とバチバチに対立しながらも、王立天文学会の設立に貢献するなど、その能力で名誉あるルーカス教授職に就任しました。
巨額の国家予算を引き出す
バベッジの偉大な功績の一つは、科学者が国から資金援助を受けるという前例を作ったことです。当時、科学は手弁当が常識でしたが、彼はその重要性を国に認めさせ、初期で7,500ポンド、最終的に親の資金も含め合計17,000ポンドもの援助金を引き出すことに成功します。
この17,000ポンドは、当時の蒸気船の建造費17隻分に相当する巨額でした。バベッジはこの国家予算を手に、世界初のコンピュータ、第1解削機関の開発をスタートさせました。
ここがポイント👌
バベッジは、腐敗した科学界で功績を上げ、政府から蒸気船17隻分に相当する巨額の資金(国家予算)を引き出し、科学研究が国から資金を得て活動するという前例を作り上げました。
🤝 挫折の原因は「凡庸な人間ドラマ」:プロジェクト失敗 職人 報酬
バベッジは、地球一精度の良いネジを作る技術を持っていたとされる腕利きの職人をスカウトしました。このプロジェクトの過程で、今日の工業製品に不可欠な標準化されたネジのアイデアも生まれました。
しかし、技術的には成功が見えていたプロジェクトは、ビジネス上の凡庸な問題によって頓挫します。
1. 相場のない報酬の見積もり
最初の問題は報酬でした。第1解削機関は世界初の試みであったため、必要な機械加工技術に対して市場に相場がなかったのです。
職人はとんでもない額の見積もりを提示。バベッジはそれを「高い」として交渉しましたが、互いに譲れず、関係にヒビが入ってしまいました。
2. 工作機械の所有権問題
決定的な問題は、職人が歯車を作るために生み出した特殊な道具(工作機械)の所有権でした。
「俺が金出して、お前が工数を使って作ったものなんだから、俺のものだろう」
バベッジは資金を投じているため、道具は自分のものだと主張。しかし、当時の商慣習では、職人側は「無理難題をクリアするために得たノウハウや道具は、職人自身のものだ」という感覚を持っていたらしく、ここに大きな感覚の相違が生まれました。職人の離脱により、世界初 コンピュータ 未完成という結末を迎えます。
ここがポイント👌
世界初 コンピュータ 未完成の失敗 原因は、報酬の相場がないというビジネス上の難しさや、工作機械の所有権に関する事前の契約・取り決めがなかったという、凡庸な人間関係のミスにあります。
🏛️ 政治と契約の教訓:未完成という「惜しさ」
プロジェクトが進められている間、政府の政権がコロコロ変わるという政治的な変動も追い打ちをかけました。内閣が変わるたびに、バベッジは計画をゼロから説明し直す必要に迫られ、計画は度々翻弄されます。
結局、バベッジが費やした巨額の資金は塩漬けとなり、挫折に終わります。彼の図面通りに制作すれば完全に動くことが後年証明されただけに、この失敗は「惜しい」の一言に尽きます。
💡 バベッジの失敗から学ぶ:現代プロジェクトで回避する方法
バベッジの挫折は、技術以前に「取り決めの不在」が原因でした。この教訓は、現代のプロジェクト管理(PM)において、契約と知財の重要性として解決されています。
報酬の相場がない問題
現代では、業務委託契約やSOW(作業範囲記述書)によって、工数や時間単価を事前に合意します。専門性の高い技術であっても、契約のフェーズで知的財産(知財)の評価と対価を明確に定めることで、後の認識齟齬を回避します。
工作機械の所有権問題
「成果物」と「その成果物を生み出すために開発されたノウハウ」の所有権は、現代のライセンス契約やNDA(秘密保持契約)によって厳格に分離されます。プロジェクト開始時に、権利の帰属に関する明確な取り決めが必須です。
📝 まとめ
「コンピュータの父」チャールズ・バベッジによる第1解削機関の開発は、彼の天才性や巨額の資金調達という追い風があったにもかかわらず、凡庸な人間関係と事前の取り決めの不在によって挫折しました。技術ではなく、報酬交渉や工作機械の所有権といったビジネス上の問題が、世界初 コンピュータ 未完成へと導いたのです。
📰 配信元情報
- 番組名: ゆるコンピュータ科学ラジオ
- タイトル: 機械式コンピュータの挫折。その原因は、凡庸な人間ドラマだった。【バベッジ2】#125
- 配信日: 2024-05-19


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