逆走するイギリス鉄道国有化:インフラ維持の課題と日本の未来

交通・インフラ

イギリスで鉄道が30年ぶりに国有化されたというニュースを聞いて、「今さらなぜ?」と驚いた方も多いのではないでしょうか?
日本では電電公社や国鉄の民営化(JR化)が進んだのに対し、イギリスはなぜ真逆の道を選んだのか?
その背景には、利益優先でインフラ投資を怠ったことによる、ダイヤの乱れやストライキの多発がありました。

今回の配信では、このイギリスの「逆走」が映し出す、人口減少が進む日本が直面する社会インフラ維持の深刻な課題を深掘り!
この記事を読めば、民営化の限界と、私たちに求められる対策がスッキリわかりますよ。

今回の配信内容🎧

今回の配信では、イギリスの鉄道システムが30年の民営化の歴史を終え、再国有化へと舵を切った背景について解説します。
民営化失敗の構造的な理由、鉄道以外にも広がる国有化の動き、そして、イギリスの事例が、人口減少・高齢化が進む日本社会のインフラ維持(特に鉄道インフラ)にどのような教訓をもたらすのかを深掘りします。

30年間の民営化が幕:イギリス鉄道の「逆走」

イギリスの鉄道は、2021年に再国有化の方針が決定され、2025年5月から本格的に旧国鉄の再国有化が始まりました。
これは、1990年代に旧国鉄が民営化されて以来、約30年間の歴史が終わったことを意味します。

聞き手が「今更国有化という印象です」と率直な感想を述べているように、
日本では1980年代に国鉄が民営化されJRとなるなど、イギリスのこの動きは世界的なトレンドに逆行しているように見えます。

なぜ国有化に逆戻りしたのか?

イギリスの鉄道民営化がうまくいかなかった最大の原因は、その仕組みにありました。
1990年代に民営化された際、イギリスは「上下分離」という方式をとりました。
運行は地域ごとに民間の会社を募って任せ、インフラ(線路など)は国営会社が保有するという方法です。

しかし、この構造が機能不全を引き起こしました。
運行会社とインフラ会社、そして運輸省の連携がうまくいかず、ダイヤの乱れやストライキが多発し、利用者からの不満が相次いだのです。

記事の筆者は、国有化は路線ごとに進められており、完了は2030年の計画だと述べています。
しかし、すでに第一弾の路線では、政府が経営状況の説明不足に不満を示すなど、
再国有化によってすぐに状況が改善するわけではないという指摘も上がっています。
収入不足や人手不足といった課題は、国有化後も引き続き残る問題だからです。

ここがポイント👌

イギリス鉄道が国有化に逆戻りしたのは、民営化時の「上下分離」方式の失敗により、連携不足からダイヤの乱れやストライキが多発したためであり、
国有化後も収入不足や人手不足の課題は残ります。

英国鉄道再国有化の実施とGreat British Railwaysの始動。
British Culture in Japan|英国鉄道が約30年ぶりに再国有化

揺らぐ新自由主義:鉄道以外のインフラにも広がる影響

水道や鉄鋼にも国有化の影

イギリスの再国有化の動きは、鉄道業界だけにとどまらず、より広範なインフラ分野で見られます。

イギリスは、1979年に誕生したサッチャー政権が新自由主義(ネオリベラリズム)の下でさまざまな民営化を進め、
「民営化のお手本」のようなイメージがありました。

しかし、その優等生であったはずのイギリスで、今、インフラの維持が問題となっています。

例えば、民営化されたロンドン周辺の水道大手は、今や破綻の危機に瀕しています。
これは、利益を重視した企業が、収益性の低いインフラへの十分な投資や保守を行わなかった結果、経営が悪化したためです。

また、イギリスの老舗の鉄鋼メーカーも、世界的な競争についていけず、国有化が取り沙汰されている状況です。


ブランド文化にも通底する変化

この一連の動きは、高級ブランドの世界で起きている変化とも通底しています。

かつては金融危機以降、贅沢をこっそり行うという風潮に合わせた「個性を抑えたシンプルなロゴ」が高級ブランドの主流でしたが、
現在は力強く伝統を打ち出すクラシックなデザインへと回帰しつつあります。

これは、過度なリベラルな主張や、社会的メッセージ優先でブランドの本質を見失うこと(ジャガーのピンクのロゴの事例)に対する、
時代の空気(ツァイトガイスト)「効率」を至上とする新自由主義の原則が、
「伝統的かつ確実な社会基盤の維持」という本質を見失った結果だと解釈できます。

ここがポイント👌

イギリスでは、利益重視の企業がインフラ投資や保守を怠った結果、
水道大手や鉄鋼メーカーにも国有化の動きが拡大しており、
これは新自由主義的な効率化の原則が限界を迎えている兆候と見られています。

ロンドンの水道大手が経営危機に直面し、国有化の可能性が報道される。
BBC News|Thames Water faces collapse amid infrastructure crisis

英国鉄鋼業界の再編と国有化議論。老舗企業の競争力低下が背景。
Financial Times|UK steel industry faces nationalisation talks

高級ブランドのロゴ回帰と社会的メッセージの限界。ジャガーの事例も紹介。
The Guardian|Luxury brands return to classic logos

日本が直面するインフラ維持の深刻な課題

縮小市場での「効率化」の限界

イギリスの事例は、人口減少と高齢化が進む日本にとっても、決して他人事ではありません。

日本では、全国の鉄道を一斉に再国有化するという議論はありませんが、
地方を中心に市場が縮小していく中で社会インフラをどう維持していくかは深刻な課題です。

民営化の最大のメリットは「効率化」でしたが、市場が縮小し、収益が見込めなくなった地域では、
民間の原理(効率化)がどこまで働くのか、その側面が見えにくくなっています。


食料・エネルギー分野にも広がる課題

例えば、日本ではインフラだけでなく、食料安全保障も大きな課題です。
コメの価格維持のために生産調整を続けてきた結果、競争力が低下し、市場縮小の道を辿ってきました。

また、エネルギー分野でも、洋上風力発電で三菱商事が撤退するなど、
政府の買取価格が安すぎたことや、資材高騰により事業採算性が維持できず、
再生可能エネルギーの拡大計画そのものが停滞する懸念が出ています。

このインフラと産業の維持の課題は、単に「運営主体」の問題ではなく、
国として持続可能性をどう確保するかという根源的な問題です。

日本が技術的な競争力を持つ分野(例:EVの全固体電池や電磁鋼板、あるいは高度な宇宙通信技術)に資源を集中させるのと同時に、
地域のインフラや食料生産といった生活基盤を、収益性とは別の視点でどう支えるか、抜本的な対策が求められています。

イギリスの動きが、単なる「揺り戻し」なのか、あるいは新自由主義が世界的に終焉を迎える兆候なのか、注意深く見ていく必要があります。

ここがポイント👌

日本は人口減少の中でインフラをどう維持するかという深刻な課題を抱えており、
市場が縮小する地方では、民営化による効率化の原理が働きにくく、
国レベルで採算性とは別の視点から社会基盤を維持するための対策が不可欠です。

三菱商事が洋上風力発電事業から撤退。資材高騰と買取価格の低さが背景。
日経新聞|三菱商事、洋上風力から撤退

日本のコメ政策と生産調整の影響。競争力低下と市場縮小の課題。
農業協同組合新聞|コメの生産調整と価格維持の限界


この記事をまとめると…

イギリスは、1990年代に民営化された鉄道システムについて、上下分離による連携不全やサービスの質低下を理由に、
2025年5月から再国有化を本格的に開始しました。

この国有化の動きは、利益優先でインフラ投資を怠った結果、経営危機に瀕している水道や鉄鋼などの分野にも広がりを見せています。

これは、民営化のお手本とされたイギリスが、新自由主義的な効率化の原則の限界に直面していることを示唆しています。

人口減少と高齢化が進む日本においても、市場が縮小する中での社会インフラ維持や、事業採算性確保の課題は深刻であり、
イギリスの事例は、持続可能な社会基盤の維持に向けた政策転換の必要性を私たちに訴えかけています。


配信元情報

  • 番組名:日経プライムボイス
  • タイトル:逆走するイギリス、鉄道国有化が映すインフラ維持の課題を3分解説【NIKKEI_FT_the_World_×_NIKKEI_PODCAST】
  • 配信日:2025-07-09

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