天然マグロ・ウナギ値下がりでも「完全養殖」が必要なワケ

科学・環境

価格高騰が続く食品の中で、天然マグロやウナギの価格が下がっているという嬉しいニュースがありますね😊。しかし、実はその裏側で、日本の食卓と食料安全保障に関わる深刻な課題が進行しています。マグロもウナギも「資源量には限りがある」という根源的な問題を抱えているからです。今回の配信では、天然資源に頼り続けることのリスクと、という壁を乗り越えてでも完全養殖が必要な理由について専門家が徹底解説!この記事を読めば、日本の水産業が抱える課題と未来への道筋がスッキリわかりますよ👍。

今回の配信内容🎧

今回の配信では、食品の値上げが相次ぐ中で、天然クロマグロやウナギの価格が一時的に下がっている現状を解説します。しかし、その裏側で、限られた水産資源を守るために不可欠な完全養殖技術に焦点を当てます。特に、完全養殖の最大の課題であるコスト高の具体的な内訳(餌や稚魚の価格)と、異常気象や国際的な規制が日本の食卓に与える影響、そして食料安全保障の観点から完全養殖の手段を維持しておくことの重要性について深掘りします。

1. 国民食の価格下落と水産資源の限界

マグロ・ウナギの価格が一時的に下がった理由

最近の食品価格の高騰は家計を直撃していますが、日本人が愛する国民食、マグロとウナギの価格は一時的に下がっています。

  • クロマグロ: 一時は絶滅も心配されていましたが、最近になって資源量が回復しています。
  • ウナギ: 中国など東アジア全体でとれた稚魚の量が、今年は19年ぶりの多さとなりました。

この結果、今年の夏、ウナギのかば焼きの売り価格は前年同期と比べて2割安になっています。家計にとっては嬉しいニュースですが、編集長は「実はそのかげで別の問題が起きている」と指摘します。
その問題とは、マグロもウナギも、どちらも資源量には限りがあるという点です。

完全養殖の定義と現状の課題

限られた天然資源を守り、持続可能な供給を可能にするために重要なのが完全養殖の技術です。
完全養殖とは、人工で孵化させた稚魚を親まで育て、その親からまた卵を取り、次の世代を生み出す養殖法のことです。天然の親に頼らない、自給自足の養殖システムと言えます。

しかし、現在、この完全養殖の道のりは険しい状況です。

  • クロマグロ: 水産各社は事業の縮小や撤退を相次いで決めており、その出荷量はピーク時から9割近くも落ち込んでいます。
  • 日本ウナギ: 技術的には可能となった段階ですが、実用化まではまだ一歩足りないといった現状です。

ここがポイント👌

天然マグロとウナギは資源量の回復や漁獲量増加で価格が一時的に下落したものの、限られた資源を守るためには、人工孵化した親から次の世代を生み出す完全養殖が不可欠ですが、マグロは出荷量がピークから9割近く落ち込むなど課題に直面しています。

2. 完全養殖を阻むコストの壁と構造的な課題

マグロとウナギ、それぞれのコスト課題

完全養殖の普及に向けた最大の課題は、圧倒的なコストの高さです。

  • マグロのコスト高: 卵から孵化させて出荷までに5年という長い年月がかかります。また、マグロの餌となるサバやイワシの価格が高騰しており、事業の採算は非常に厳しくなっています。
  • ウナギのコスト高: 日本ウナギの場合、人工稚魚の価格が2024年時点で1匹1,800円にもなります。これは天然稚魚の3倍ほどの水準であり、実用化にはさらなるコストカットが求められています。

技術的に可能であっても、コストが高すぎて市場競争力を失えば、企業は撤退せざるを得ません。

構造的な課題:市場原理を阻む「価格維持」の限界

食料供給におけるこの「コスト vs 競争力」のジレンマは、日本の他の産業でも共通する構造的な課題です。

例えば、コメ不足の議論では、かつて価格を維持するために1970年以降から生産調整政策(減反政策)が行われました。しかし、専門家は、価格が下がっても収穫量を増やして生産コストを下げ、国際市場に輸出すべきだという「発想の転換」を訴えています。

これは、過去の「価格維持」を目的とした政策が、農業におけるビジネス感覚や競争力強化を阻害してきたという構造的な問題です。

完全養殖の技術においても、採算性を無視して天然資源の保護を優先することはできませんが、マグロやウナギの完全養殖が「作りたくても作れない」状況に陥っているのは、単なるコスト高だけでなく、市場を国内に限定しすぎるといった、構造的な発想の限界も影響している可能性があります。

ここがポイント👌

完全養殖の最大の障壁はコストであり、マグロは餌の高騰、ウナギは人工稚魚の価格が天然の3倍という課題に直面しています。これは、コメの生産調整政策が市場競争力を阻害してきたのと同様に、日本の食料供給システムが抱える構造的な課題を映し出しています。

3. それでも完全養殖が必要なワケ:食料安全保障の「切り札」

異常気象と国際規制が日本の食卓を直撃

コストが高くても、日本が完全養殖の技術開発から撤退してはならない理由があります。それは、食料安全保障という、国としての基盤に関わる問題です。

天然の水産資源に頼り続けることは、異常気象などの影響を避けることができず、持続可能とは言えません。異常気象によって漁獲量が激減すれば、価格は高騰し、国民の食卓を直撃します。

さらに、国際的な規制の動向も無視できません。

  • ウナギの国際規制: EUは、日本ウナギなどをワシントン条約の対象に加えるよう提案しています。
  • 貿易の制限: もし11月末からの定約国会議で採択されれば、東アジアでのウナギの稚魚やカバヤキの貿易が自由にできなくなる可能性があり、天然資源の保護意識が一段と高まっています。

このような国際規制や地政学的なリスクが高まる時代において、外部要因に左右されない安定的な供給手段を持つことこそが、食料安全保障の最重要課題となります。

「虎の子の技術」を維持することの重要性

マグロの完全養殖を手掛けるマルハニチロは、事業環境が変わっても「完全養殖は絶対にやめない」と語っています。その理由こそ、「完全養殖は一度撤退すると、再開に10年はかかる」という現実があるからです。

この「手段を維持しておくこと」の重要性は、日本の他の技術分野でも共通する戦略です。

  • EV電池: EV市場で中国勢にリードされる日本勢は、高性能な全固体電池を「反転攻勢の切り札」と位置づけています。コスト高という課題に対し、廃車EVの電池を再利用する構想などで、実用化への道筋をなんとか維持しようとしています。
  • EV素材: 日本製鉄は、EVモーターに不可欠な電磁鋼板という「虎の子の技術」を持ち、技術流出のリスクを負ってでもアメリカ市場への投入を図っています。

このように、コスト競争が厳しくても、日本の競争力を支える独自の技術は、一度手放せば取り戻すのに長い時間がかかります。完全養殖の技術も同様に、日本の食卓を守るための「虎の子」であり、技術でリードする余地があるため、国や企業は短期的な採算性だけでなく、未来の安全保障への投資として手段を維持する必要があるのです。

ここがポイント👌

完全養殖は、異常気象やEUによるウナギの国際規制といった外部リスクから日本の食卓を守るための食料安全保障の手段であり、一度撤退すると再開に10年かかるため、コストを度外視してでも技術の維持が重要です。


この記事をまとめると…

天然クロマグロやウナギの価格は資源量回復などにより一時的に下落していますが、水産資源の限界と持続可能性の観点から、完全養殖の技術開発は不可欠です。しかし、マグロの餌の高騰やウナギの人工稚魚のコスト高が普及の最大の障壁となっています。それでも完全養殖が必要なのは、異常気象や国際的な規制(EUによるウナギのワシントン条約提案など)から日本の食料安全保障を守るためであり、一度撤退すれば再開に10年かかるため、技術手段を維持することが重要だと指摘されています。日本の稲作改革で求められる「発想の転換」と同様に、水産業においても、コスト高の壁を乗り越えて、技術的な優位性を守り抜く戦略が求められています。


配信元情報

  • 番組名:Minutes by NIKKEI × NIKKEI PODCAST
  • タイトル:天然マグロやウナギ値下がり それでも完全養殖が必要なワケ
  • 配信日:2025-09-03

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