9月3日の抗日戦争勝利80周年記念軍事パレードを経て、中国では日本の歴史問題が引き続き大きな関心事となっています。
特に、南京大虐殺をテーマにした映画 『南京写真館』 が中国全土で異例のヒットを記録し、そのクライマックスで発せられた「日本人は友達ではない」というセリフは、日中間の歴史認識の深い溝を象徴しています。
このエピソードでは、政治的なイベントの裏側で進行する一般市民の複雑な感情、そして、メディア規制下にある中国政府の対外メッセージと国内向けプロパガンダの矛盾を、現地取材の視点から深く分析します。
中国全土でヒットした抗日戦争映画の衝撃作「南京写真館」
「日本人であることを隠すべきか?」旅行者からの不安
リスナーからは、中国旅行を控える中で「日本人であることを可能な限り伝えない方が良いか」という不安の声が寄せられました。
立山局長は、外務省の注意喚起(日本語を大声で話さない、目立つ行為を避けるなど)を紹介しつつも、ことさらに日本人であることを隠す必要はないと回答しています。
旅先で良識を欠いた行動を取れば世界中どこでも不快に思われるのは当然であり、歴史問題という別の要素はあるものの、相手の話をしっかりと聞く姿勢があれば、新たな発見や交流が生まれる可能性もあるとしています。
立山局長は、沖縄や広島で、戦争を経験した人々の思いを顧みずアメリカ人が大騒ぎするのと同じ感情的な問題であると例示し、歴史的背景への配慮の重要性を強調しました。
中国への偏見が解消されたリスナーの声
一方で、ポッドキャストを通じて、中国に対する偏見(「中国はずるい」「身勝手だ」といったステレオタイプ)が解消されたという感謝のメッセージも寄せられています。
このリスナーは、中国の「事情、豊かさ、多様性、問題」を知ることで偏見がなくなったと述べています。
立山局長は、中国外務省に頼まれて配信しているわけではないと前置きしつつ、多様な中国の姿を知ってもらい、食わず嫌いや偏見が少しでも解消されれば嬉しいと述べています。
感じたポイント👌:旅行時の不安と、情報接触による偏見の解消という両極端なリスナーの反応は、中国という国が日本国内でいかに 「ステレオタイプ」 によって語られがちであるかを示唆しており、多角的な情報の必要性を改めて感じます。
緊迫する国際情勢の裏側:軍事パレードと権力者の「不老不死トーク」
軍事パレード後の現場のリアルと監視体制
先日行われた中ロ朝3首脳がそろい踏みした軍事パレードについて、リスナーからは「パレードの影の主役はトランプだ」という分析に納得したという声が寄せられました。
また、現場での厳しい監視体制も報告されています。
- パレード前に北京市局のオフィスに警察の立ち入り検査があった
- 他社では警察官がオフィスの前にベッドを持ち込み、一日中寝そべって監視していた
という話もあったそうです。
映像が世界中に晒した中国の「常識と非常識」
パレードの映像では、習近平国家主席とプーチン大統領が 「不老不死」 や長寿について会話しているプライベートな音声が流れるというハプニングがありました。
この映像について、CCTV(中国中央テレビ)がロイター通信に対し、この映像を配信しないようにと要請したことが明らかにされています。
立山局長は、これは「恥の上塗り」であり、中国が都合の悪いことを削除する「常識」が、世界の「非常識」としてバレてしまった事態だと指摘しています。
共産党統治の正当性を強調する「建国の物語」
中国政府が9月3日の抗日戦争勝利記念日を重視する最大の理由は、中国共産党統治の「正当性」 を再確認させることにあります。
共産党は選挙で選ばれた政府ではないため、「なぜ統治しているのか?」という問いに対し、「日本との戦いに勝ったのは共産党だから」 という建国の物語を繰り返し強調する必要があるのです。
習近平主席は、軍事パレード直前の7月7日に、共産党が日本軍との戦いに勝った数少ない場所とされる「百団大戦」の地を訪問しました。
国際会議(BRICS)を欠席してまでこの建国の物語を強調した背景には、経済の減速期において国民に対して 「共産党なら中国は強くなる」 という強国路線のメッセージを改めて植え付ける狙いがあると分析されています。
感じたポイント👌:公的なプロパガンダの厳格な管理(軍事パレードの警備やCCTVによる削除要請)と、指導者のプライベートな会話(不老不死トーク)が漏れてしまうという人間的な側面が同時に存在しているのが、中国という国の情報統制の複雑さです。
映画「南京写真館」のメッセージ:「日本人は友達ではない」
映画の背景と異常な動員:夏休みの宿題となった映画
南京大虐殺をテーマにした映画『南京写真館』は、南京に入場した日本軍カメラマンの伊藤忠一と、彼のフィルム現像を手伝う中国人の青年が主人公です。
中国人の青年は、その立場を利用して南京市民を隠し、大虐殺の証拠フィルムを外部に持ち出すという物語です。
興行成績は700億円(日本円)を超え、異例のヒットとなりました。
このヒットの背景には、動員(チケットの手配)があったようです。さらに、観客には子ども連れが多く、夏休みの宿題として感想文を書かせている学校もあったためではないか、という情報も紹介されています。
衝撃の結末と制作者の意図への疑問
物語の終盤、日本軍カメラマンの伊藤忠一(非常に悪質な人物として描かれている)は、彼を信用していた中国人の青年を裏切ります。
そして、死にゆく中国人の青年が吐き出すセリフが、「日本人は友達ではない」 という衝撃的なものでした。
映画は、捕虜の虐殺、レイプ、赤ちゃんを地面に叩きつけて殺す残虐な日本兵など、残酷なシーンが全編にわたって描かれ、中国語と英語の字幕がつき、海外公開を念頭に置いた作りとなっていました。
また、欧米人医師やジャーナリストも登場し、日本 対 中国・欧米連合という構図が明確に演出されていました。
今までの中国の論理を越えたメッセージ性
これまで中国政府は、日中の国交正常化において、戦争を主導した 「一部の軍国主義者と一般の庶民は別だ」 という論理で切り分け、一般市民には罪がないというメッセージを伝えてきました。
この論理こそが、日本人への憎悪を抑えつつ国交を維持してきた基盤でした。
しかし、この映画のクライマックスで「日本人は友達ではない」と断じるセリフは、「今までの中国の論理を超えるもの」 であり、庶民までを否定するような強いメッセージを内包しているのではないか、と立山局長は疑問を呈しています。
感じたポイント👌:この映画が示す「日本人は友達ではない」というメッセージは、外交関係を意識して反日感情を煽らないように苦心する政府の姿勢とは「ちぐはぐ」なものであり、国内の愛国主義を優先するプロパガンダと対外外交との間のジレンマが露呈していることがわかります。
歴史の総括の欠如が招く「知識のギャップ」
映画の裏に隠された「強くなれ」という指導部のメッセージ
映画のエンディングで、文字として表示される最後のメッセージは、「歴史を転み、強くなれ」 という意味の言葉でした。
これは、中国が過去に侵略された「屈辱の歴史、被害者意識」が非常に強く、二度と侵略されないために「軍事的にも経済的にも強くなければならない」という、習近平指導部が口にする「強国」路線と完全にシンクロしています。
軍事パレードのテーマとも重なる、被害者意識をバネにした強国化こそが、この映画の根底にあるメッセージだと分析されています。
しかし、このようなメッセージは周辺国からは脅威と映り、日本の防衛費増強の根拠となり、結果として日中間の軍事費増大の「悪い循環」を生んでいます。
中国人講師が抱く「日本人の歴史認識への憤り」
立山局長が個人的に中国語を習っている30代の女性講師は、スマップの大ファンで親日的ながらも、歴史認識については非常に厳しい意見を持っているそうです。
この講師は、日本人の駐在員に南京大虐殺について聞いても「あまり知らない」と答えられたことに「むっちゃ怒っている」とのこと。
中国では愛国教育を通じて幼い頃から戦争の歴史について一定程度の知識を持っているのに対し、日本人は学校であまり習わないため、「知識量の違いがコミュニケーションのギャップになっている」 と指摘されています。
日本が直面する「総括なき歴史認識」の課題
立山局長は、日本人が歴史的知識に乏しいのは、日本自身が国家として戦争を総括できていないことに原因があると考えています。
第二次世界大戦や日中戦争の「侵略」についての立場が国家として確定していないため、日本人の歴史認識があやふやになっているとしています。
実際に、日本の学生時代の歴史教育では、柳条湖事件や日中戦争については学ぶものの、南京大虐殺については少ししか扱われず、重慶爆撃などは全く教えられなかったという経験も共有されています。
中国の知識人との対話を進める上で、自国の歴史について知識を持つことの重要性が改めて強調されています。
感じたポイント👌:歴史認識のギャップが、単なる知識不足にとどまらず、海外で活動する日本人が「国家そのものを背負わされて」(代理責任を負わされて)しまう状況を作り出しているという点は、国際関係における 権威性(Authoritativeness) の欠如を示す、重要な視点だと感じました。
この記事をまとめると…
- 南京写真館のメッセージ: 中国で大ヒットした映画『南京写真館』のクライマックスのセリフ「日本人は友達ではない」は、従来の中国政府が推進してきた「軍国主義者と市民を切り分ける」論理を超越し、強い反日感情を刺激する国内向けプロパガンダとなっています。
- 映画の真の目的: 映画の最終的なメッセージは「歴史を転み、強くなれ」であり、中国が過去の屈辱をバネに「強国」を目指すという習近平指導部の政策と強く結びついています。
- 日中間の知識ギャップ: 中国では愛国教育により国民が歴史知識を深く持っている一方、日本では戦争の総括の欠如や教育内容の少なさから歴史認識があやふやな人が多く、これが日中間のコミュニケーションの大きなギャップを生んでいます。
- 外交の矛盾: 中国政府は対外的には日本批判を抑え関係改善に努めているのに対し、国内向けには映画のような激しい愛国教育を奨励しており、この二重のメッセージが中国外交のジレンマとなっています。
配信元情報
- 番組名:北京発!中国取材の現場から
- タイトル:第40集 「日本人は友達じゃない」映画「南京写真館」のメッセージと日中歴史認識のギャップ
- 配信日:2025-09-23


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