中国ビジネスの最前線は今どうなっているのか
本間哲朗・中国日本商会会長(パナソニック総代表)が、急速なイノベーションと激しい値下げ競争、そして安全保障リスクが絡み合う中国市場の「今」を語ります。
特に、若者の雇用を奪うロボット化の波や、日本企業が直面する 「ネイチュエン(内巻き競争)」 の実態は必見です。
さらに、日中間の文化大革命世代の官僚との交流や、政治的なメッセージを読み解く重要性についても深掘りします。
この巨大で複雑な市場から、日本企業が目を離してはいけない本質的な理由を解説します。
お便り紹介:国際報道と「思考停止」への警鐘
まずは恒例のお便り紹介から。リスナーからは、国際報道や中国という複雑な国を理解することの重要性について、熱いメッセージが寄せられました。
複雑な世界で「簡単な答え」に飛びつく危険性
あるリスナーは、世の中が複雑であればあるほど、排外主義や陰謀論のような「すぐに出る答え」に飛びつきたくなるが、これは一種の思考停止であると指摘しています。
ポッドキャストのホスト(立山)もこれに賛同し、「すぐに出る答えはすぐに役に立たなくなる」 というのが持論だと述べました。
考えるのが面倒だから簡単な答えに飛びつきたくなるが、そうならないように、辛いことではあっても考え続けていくプロセスが大事だと強調しています。
また、SNSの普及により、短い動画や文章が溢れ、自分が好きな情報ばかりが入ってくる環境は便利である反面、考えることをやめてしまう理由にもなっているのではないか、という懸念が示されました。
感じたポイント👌:社会の複雑化に伴い、国際報道や多様な情報に触れることが、思考を維持し、偏見を解消する上で重要な役割を果たしているという認識は、現代において非常に重要だと感じます。
政治的交流のリアリティ:指導者との関係と中国官僚の背景
習近平主席との「写真」が持つ政治的な意味
本間会長は、2019年の中国国際輸入博覧会(輸入泊)の開幕式で、遠くから習近平国家主席と対面した経験について語っています。
この時、外国企業の代表として習近平国家主席とともに写真を撮る機会がありましたが、中国では指導者と一緒に写真を撮ることは非常に政治的に重要な意味を持つとされています。
この写真は、会社(パナソニック)のフロアに大きく伸ばして飾られ、多くの社員が大変喜んでくれたとのことです。
本間会長は、在住トップとして、このような機会があれば率先して模索することが、日本企業のトップに求められている役割だと強く自覚したと述べています。
文化大革命世代の官僚が語る「共産党への信頼」
本間会長は、中国政府の元商務部副部長(ワンさん)との個人的な食事のエピソードを紹介しました。
この元官僚は、文化大革命の後、大学入試が再開された第一巡目の世代であり、吉林大学出身だと明かしています。
この官僚は、大学時代に貧しく、奨学金(月20元)を節約し、2ヶ月で余った2元で仲間と「犬食べ」(犬肉料理)や白酒を楽しむのが青春の楽しみだったと語ったそうです。
そして、「そこまで貧しかった中国をここまで導いた中国共産党というものを自分は信頼しているし、共産党のためにこれからも力を尽くしていきたい」 という話を聞き、本間会長は「なるほど、そういう風に中国の方はお考えになるんだな」と、自身の中国理解が深まったと振り返っています。
感じたポイント👌:現代の中国の幹部層が、共産党に強い信頼を寄せる背景には、貧しかった時代からの経済発展という「一次体験」が深く関わっていることが示唆されます。
在留邦人の安全と雇用激変:ビジネス環境の二つの大きな壁
治安不安と「法令の不明確さ」が招く在留邦人の減少
最近、国会議員の訪中が増えるなど日中間の政治的交流が回復しつつある一方で、在留邦人にとっての環境は依然として厳しい状況です。
日本人親子が被害に遭う事件が相次いでおり、駐在をためらう大きな原因となっています。
- 生徒数10%強の減少: 2025年4月時点で、中国大陸の日本人学校の生徒数は前年に比べ10%強も減少しており、駐在中止や帰国が増加している実態が報告されています。
- 拘束事件への懸念: ビジネスマンの拘束事件に関しては、在住日本企業の従業員が 「何がしていいことで何がしてはいけないことかというのが今一つ分かりにくい」 という問題に困惑している状況です。
日本商会は、市民に分かるように法令を噛み砕いて説明するよう、日中両国政府の関係者に要請しているとのことです。
労働者の仕事を奪う「急速なIT化とロボット化」
在留邦人減少のもう一つの背景には、中国のビジネス環境の構造的な変化があります。
本間会長は、中国の会社が今どこも雇用を減らしにかかっていると分析しています。
- ロボット価格の破壊的低下: その要因は急速なIT化とロボット化であり、ロボットの価格は、この4年で60%下がったとされています。
- 労働者の給与以下に: 単純な作業をするロボットの価格は、もはや労働者の半年分の給料もしないのが今の中国の現状です。
- 日中間のスピード差: 中国の経営者は、ロボットをどんどん導入して工場の人員を少なくする判断をしており、この進みは日本より中国の方が早いと感じられています。
感じたポイント👌:雇用問題は治安問題と並び、中国社会が直面する構造的な課題であり、その解決策としてAIやロボット技術に依存する傾向が強いことがわかります。このスピード感(チャイナスピード)は、日本企業が注視すべき 専門性(Expertise) と言えるでしょう。
「中国市場から目を離すと世界で負ける」:デフレ競争と成長軸
破壊的な値下げ競争「ネイチュエン(内巻き競争)」の実態
中国経済は、公式には5%程度の成長が実現されていると報じられていますが、その成長の軸は地域的にも業種的にも大きな動きがあるのが特徴です。
特にアンケート結果で目立ったのが値下げ競争の激しさです。
中国式内巻き競争(中国語で「ネイチュエン」)と呼ばれるこの現象は、経済学でいう破壊的価格競争が至るところで繰り広げられている状態です。
- 日本企業の回避戦略: 外国企業がこの競争に正面から挑むのは難しいため、デザインや機能で 「少しずらす」 戦略をとることが生き残りのコツだとされています。
- 内巻き競争のメリット: 一方、内巻き競争の恩恵として、仕入れる原材料や素材が安く買えるというメリットがあります。これを活かすには、意思決定の現場を中国に持ってくる必要があると本間会長は述べています。
- 成長セクターへの注力: 生成AIサーバー関連の電子部品や生産施設など、激しく伸びているセクターがあるため、日本企業はそうした成長するセクターに体を寄せていく努力が欠かせません。
中国GDPは日本の5倍:世界で負けないための市場への関与
米中対立の影響として、国際関係の変化が自社の事業に影響を与えていると回答した日本企業は多くないものの、これは多くの企業が中国で作ってアメリカに出すというビジネスをすでに縮小しているためだと分析されています。
しかし、本間会長は、経済安全保障のリスクがある中でも、中国市場の重要性は変わらないと強調します。
- 圧倒的なGDP規模: 中国のGDPは日本の5倍の規模がある。
- グローバル競争の試練: 中国市場で繰り広げられる厳しい競争は、優秀な企業を育て、そうでない企業を没落させるサイクルを回しています。
- 会長の警鐘: 本間会長は、「中国市場から目を離してしまうと、本当に世界で負ける可能性がある」 と警鐘を鳴らしており、パナソニックグループ内では 「チャイナコストはグローバルコスト、チャイナスピードはグローバルスピード」 という考え方が共有されているとのことです。
感じたポイント👌:中国市場で戦うことは、単に中国国内で収益を上げること以上の意味を持ち、グローバル市場で競争力を保つための「訓練の場」となっているという点が、本間会長の言葉の専門性(Expertise)を裏付けていると感じました。
この記事をまとめると…
- 政治的背景と交流: 中国の指導者層は、文化大革命後の貧困からの復興という「建国の物語」を通じて共産党への高い信頼を持つ世代が中心。指導者との写真撮影は、中国ビジネスにおいて極めて重要な政治的メッセージとなる。
- 在留邦人リスク: 相次ぐ事件や、法令の不明確さ(拘束リスク)が在留邦人減少の主要因となり、日本人学校の生徒数が前年比10%強も減少。
- 雇用環境の激変: 中国ではロボット価格が4年で60%下落し、単純作業の自動化が進む「IT化とロボット化」が急速に進行。企業は人件費節約のため雇用を減らす傾向。
- 競争と戦略: 中国市場は激しい値下げ競争(ネイチュエン)が特徴。日本企業は正面から挑まず「少しずらす」戦略や、成長著しい生成AIサーバー関連などのセクターに注力する必要あり。
- 中国市場の重要性: 中国のGDPは日本の5倍。この競争の場から目を離すと「本当に世界で負ける可能性がある」という認識が、中国ビジネスの大前提。
配信元情報
- 番組名:北京発!中国取材の現場から
- タイトル:第37集「中国市場から目を離すと世界で負ける」本間哲朗_中国日本商会会長が語る中国ビジネス最前線(後編)
- 配信日:2025-09-01


コメント