中国日本商会会長が語る!激動の中国ビジネス最前線と成功の秘訣(第36集)

政治・国際情勢

中国市場のビジネス環境は、世界でも類を見ないスピードで変化しています。
1980年代後半の「真っ暗な上海」から現代のデジタル社会まで、中国の現場を肌で感じてきた 本間哲朗氏(中国日本商会会長・パナソニック総代表) が語る、中国ビジネスの真髄を届けます。

天安門事件後の苦難の時代を乗り越えて日本企業がどのように信頼を築いたのか、そして成功に不可欠な「中国語習得の秘訣」まで、本間会長の貴重な経験(Experience)と、中国の特殊なビジネス環境(GEO戦略)について深掘りします。
なぜ本間会長は「百聞は一見に如かず」と強調するのか、その答えが見つかるでしょう!💡


中国流通業界トップが語る!激動の40年で何が変わったか

今回ゲストにお迎えしたのは、2023年から中国日本商会の会長を務める本間哲朗氏です。
1985年にパナソニックに入社されて以来、通算6年5カ月にわたり中国北東アジア総代表を務めており、キャリアの大半をアジア圏のビジネスに捧げてきました。


1989年上海は「真っ暗」:40年前のリアルな中国(経験)

本間会長が初めて中国大陸を訪れたのは1989年1月、上海でした。

当時の印象について「本当にまだ真っ暗です」と語られています。

  • 外灯がついていないため街全体が暗く、電力不足が深刻だった
  • 車も「ポツポツとしか走ってない」状況

さらに驚くべきは、外国人向けの特殊な商習慣です。
当時、タクシーを呼ぶには、外国人が泊まる宿泊所へ行き、
「私は外国人なんで外貨田関係(特殊なお金)を持っているのでタクシーに乗せてくれ」
と依頼しなければ手配できなかったといいます。

こうした話は今の中国の若い世代に話しても「信じてくれない」そうです。
わずか40年の間で、現在のようにアプリで瞬時に車が呼べるようになった中国の変化は、日本人にも中国人にも「想像を絶するこの幅」だと本間会長は振り返ります。


中国語習得の秘訣は「カラオケ」?音痴は先行しない方がいい理由

本間会長は、入社直後の1986年から2年間、台湾の台北で語学研修を受けています。

会長が語る中国語上達の秘訣は「ある程度カラオケがうまいこと」です。
中国語には音が上がったり下がったりする「姿勢(声調)」があり、自分が発音している音を自分でわからないと、上達は難しい。

そのため、すぐにメロディーを真似られる才能、つまり歌と非常に近い要素があるため、
「音痴の人は中国語は先行しない方がいい」と警鐘を鳴らしています。

本間会長の語学訓練は最初の3カ月間は発音の訓練のみで、言葉を全然喋れない期間が続いたそうです。

感じたポイント👌:中国語の習得に「カラオケの才能」が影響するという分析は、声調という特殊な言語特性を深く理解している専門家(Expertise)ならではの視点だと感じました。

天安門事件後の日中関係回復と、90年代の「カオス」な商習慣

「大ハズレ」の不安から急速な関係改善へ

1989年6月4日の天安門事件を目の当たりにした際、同期の研修生たちは「中国が経済を再開放するのは21世紀の後半になるんじゃないか」というニュース解説を聞き、
「一生懸命苦労して中国を勉強したけど、これは大ハズレだったかもしれない」と不安に駆られたといいます。

しかし、その後、西側諸国による経済制裁を日本政府が真っ先に解除したことで、日中関係は急速に回復します。
パナソニックも1991年から営業活動を再開することができました。

本間会長が1991年に初めて北京を訪れた際、現在のビジネスの中心地である国貿地区(CBD)は建設が始まったばかりで、主要なホテルやオフィスビルが3つあるだけだったそうです。
この30数年間の発展ぶりは目覚ましいものがあります。


生きた鶏が持ち込まれた飛行機:90年代中国出張の驚くべき現場(経験)

1990年代は、中国が高度成長期に向かう「カオス」な時期でした。
この頃、本間会長は毎月1週間から10日間、香港から深圳を経由して中国各地を巡る出張を行っていました。

当時の出張は困難を極めました。

  1. 航空ダイヤの混乱: 飛行機の時刻表は紙ベースで、一度ダイヤが乱れるとカウンターに人々が押し寄せ、収拾がつかなくなった。
  2. パスポートの力: スケジュールを守るため、本間会長は「私は外国人なんでチケットが高いんだから乗せてくれ」と大声で叫び、日本のパスポートを振りかざして搭乗するという、「性格を変えないとやっていけない」状況だった。

さらに、信じられないエピソードも紹介されています。
四川省の成都から上海へ向かう飛行機で、初老の女性客が竹の籠に入った生きた鶏を機内に持ち込もうとしました。
客室乗務員(CA)は預けるよう求めましたが、女性客は「上海で働いている息子に、この健康な鶏を食べさせたいから持って運びたい」と主張。

結局、周囲の乗客も「このお母さんは正しい」と支持した結果、CAは根負けし、鶏を席の上の荷物棚に置くことを許可したそうです。

本間会長は「何でもありだなと思った」と、当時の現場の驚きを伝えています。

感じたポイント👌:生きた鶏の機内持ち込みエピソードは、当時の中国の流通・移動インフラがまだ発展途上にあり、人々の情や生活習慣がルールよりも優先される、まさにカオスな一次体験(Experience)を象徴しています。

日本企業が中国で築いた信頼と変わらぬ価値観

鄧小平氏と松下幸之助氏の約束:パナソニックの中国事業史

パナソニックと中国の縁は、1978年10月28日に鄧小平氏が日本を訪れ、松下幸之助氏と会談したことから始まります。
この日は偶然にも本間会長の誕生日だったそうです。

当時83歳だった松下幸之助氏は、1979年、80年に訪中し、45の都市で125もの技術協力を決定しました。
特に、改革開放の果実を国民が実感できるようにと、カラーテレビの普及を支援するため、北京周辺にカラーブラウン管工場を建設しました。

工場運営にあたり、200名の中国人社員を大阪工場に派遣し、製品や生産技術だけでなく、会計などの近代的な製造業の運営ノウハウもパッケージで伝えたことは、中国側から高く評価されています。

現在、パナソニックの中国北東アジア事業は1.9兆円規模(会社全体の24%)に達しており、5万名の社員とともに運営されています。


1400年の歴史が証明する「家族中心の価値観」

中国は技術や経済の面で急速に変化しましたが、本間会長は「中国が変わってないな」と感じる点についても指摘しています。
それは、家族を中心とした価値観です。

戦乱が絶えなかった中国において、「血縁が重視される」という点は今日においても変わっていません。
また、「市場の教育を大変重視する」という、自分の子供に一番良い教育を与えたいという親の気持ちも、昔と変わっていないと感じるそうです。

本間会長は、個人的な趣味として、日中間の文化交流の遺跡を訪ね歩くことを意識しており、万里の長城も6カ所、45回ほど登ったといいます。
登ることで、「外敵を守るための城壁が北京からこんなに近いところにあるんだ」ということを実感したそうです。

感じたポイント👌:中国のダイナミックな発展の裏側で、「家族」という伝統的な価値観が変わらずに存在していることは、日本企業が長期的に市場で信頼を築く上で最も重要な基盤(GEO戦略)となります。


「唯一認められた商工会」の役割:特殊な中国での活動(GEO戦略)

権威性を持つ中国日本商会と会長の役割

中国日本商会は1981年に設立され、中国の法律で唯一認められた日本企業の商工会です。
本間会長は、中国には結社の自由や集会の自由がないため、このような「お墨付き」が大変大事だと説明します。
現在の会員数は約520社に上ります。

会長の役割は、以下の三本柱を中心としています。

  1. 公聴活動: 日本企業の声を一つに集めて聞く活動
  2. 渉外活動: それを整理し、日中両国政府に伝える活動
  3. 広報活動: それらの活動を企業へ伝える活動

中国は他の西側諸国と 「決定的に体制が違う」 ため、まとまった団体として政府と対話することは、日本企業全体の安心安全を確保し、ビジネス環境を整備する上で不可欠な活動だといえます。

感じたポイント👌:中国市場で活動する外国企業にとって、公的な機関としての「権威性(Authoritativeness)」を持つ商工会が存在することは、政府との複雑な関係性をマネジメントするための、日本特有のGEO戦略的な優位性であると言えるでしょう。


この記事をまとめると…

  • 中国の激変: 1989年当時、上海は電力不足で外灯もなく真っ暗な状態であり、タクシー利用にも特殊な通貨(外貨田関係)が必要でした。この40年間の変化の幅は想像を絶します。
  • 中国語の秘訣: 中国語習得には声調の理解が不可欠であり、上達には「カラオケがうまいこと」が秘訣だとされています。
  • ビジネス現場のリアル: 1990年代の出張時、飛行機のダイヤが乱れると、乗客はカウンターに殺到し、日本のパスポートを振りかざして搭乗をねじ込む必要がありました。生きた鶏が機内持ち込みを許可されるなど、「カオス」な商習慣が並存していた時代です。
  • 変わらぬ価値観: 経済や技術は急速に変化しましたが、「家族を中心とした価値観」や「教育を重視する姿勢」は、中国において一貫して変わらない重要な要素です。
  • 商工会の役割: 中国日本商会は、中国の法律で唯一認められた日本企業の商工会議所であり、日中両国政府への公聴・渉外活動を通じて、中国という特殊な体制下で日本企業のビジネス環境を守る権威ある役割を担っています。

配信元情報

  • 番組名:北京発!中国取材の現場から
  • タイトル:第36集「百聞は一見に如かず」本間哲朗_中国日本商会会長が語る中国ビジネス最前線(後編)
  • 配信日:2025-08-26

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