若者の失業を隠す、北京のユニークなビジネスの衝撃
若者の失業率が深刻化する中国で、あるユニークなビジネスが話題になっています。
「偽装出勤会社」――それは、給料をもらうためではなく、失業を隠し、社会とのつながりを保つために若者がお金を払って通う「働いているフリ」をする場所です🤔。
長引く不動産不況と若年層の競争激化が背景にあり、その数は都市部を中心に増えつつあります。
なぜこのサービスが生まれたのか?そこには、面子を重んじる中国文化と、5人に1人が失業しているという若者の厳しい現実が潜んでいます。
現地取材で明らかになったサービスの全容と、その背景にある「ネズミ人間」化する若者たちのリアルに迫ります✨。
お便り紹介:中国の発展史に見る「カオス」の記憶
まずは、恒例のお便り紹介から。今回は、中国日本商会会長の本間哲朗氏へのインタビュー回(36、37集)について、多くの反響が寄せられました。
10年前の中国:チケット争奪戦と飛行機のカオスな現場(経験)
リスナーからは、本間会長が語った1990年代の飛行機搭乗のカオスな状況(パスポートを振りかざして搭乗する)と類似する、ご自身の長距離バス争奪戦の体験談が寄せられました。
2016年の国慶節に河南省定州のバスターミナルを訪れたリスナーは、翌日、大群衆に囲まれ、警察官が怒鳴り合うカオス状態を目撃したといいます。
ターミナルは立ち入り禁止となり、バスのスケジュールはめちゃくちゃ。外国人と叫び続けたら、警察官がロープをさっと持ち上げ、無言でターミナルに入れてくれたものの、中では行き先が表示されたバスに人々が ダッシュして乗り込む「争奪戦」 が行われていたそうです。
どのバスも乗り切れない人がいて、「まるで大運動会を見ているようでした」と振り返っています。
ホストたちも、今はスマホでチケットを購入し、人々もきちんと行列に並ぶようになったため、こうした「カオスな状況」はあまり見られないと述べていますが、昔は飛行機に乗る時でさえ、搭乗前から激しく並んでいたと語っています。
感じたポイント👌:わずか10年ほど前まで、交通インフラが整っていてもオペレーションの現場がカオスだったという事実は、中国の急速な社会変化の「幅」を象徴する、貴重な一次体験(Experience)です。
日中経済の懸念:中国市場は外資に儲けを許さないのか?(専門性)
日中経済交流の本質的な問題について、リスナーから厳しい指摘も寄せられました。
中国が求めているのは、
- 外資は中国に生産工場を作り、資本と技術を投入して雇用を生み出せ
という点であり、
その一方で、 - 中国人相手に儲けることは許さない
という 変務的(不公平) な構造にあるのではないかという意見です。
例として、資生堂、ユニチャーム、花王などが、かつて中国にはなかった高品質な製品を導入したものの、中国政府の妨害に遭い、すっかりシェアを落としてしまった事例が挙げられています。
ホストは、もちろん中国ビジネスはリスクとメリットのバランスを見極める必要があり、技術移転の強要など問題もあると認めつつ、資生堂などに限らず、中国製品の質自体が上がっているため、必ずしも日本製品じゃなくても良いと考える中国の消費者が増えている、という変化もあると分析しています。
感じたポイント👌:日本の専門家(本間会長)が警鐘を鳴らすように、中国市場がグローバル競争の試練の場となっている中で、日本企業は常にリスクと、中国製品自体の質の向上という専門的な競争環境に直面していることがわかります。
教科書で教える「文化大革命」と、タブーとされる「天安門事件」(権威性)
天安門事件は検索もできないと聞くが、大躍進政策や文化大革命(文革)については学校で学ぶのか、という質問が寄せられました。
ホストの立山局長は、文革について、習近平国家主席も文革世代であり、彼のお父さんが失格したことで地方に下放されて農作業をやっていた時期があると説明しています。
文革は中国では意外と近い歴史であり、歴史の教科書の話というよりも「つい最近の話」なんだという感覚が中国にはあります。
文革の残した傷跡は大きく、
- お寺の首のない仏像(修復中)
- 親が子供を密告するなどの「人の心に残した傷」
の方が大きいのではないか、と指摘しています。
ご質問への回答としては、大躍進や文革については、今は教科書で教えているとされています。
特に文革については、
「莫大な損失をもたらした、建国以来の最大の深刻な挫折をもたらした、反省しなければならない」
というふうに総括しているそうです。
毛沢東も亡くなり、歴史になっている部分があるため、国民も「あれは毛沢東の失敗だったでしょ」と割と普通に口にし、タブーではないといいます。
しかし、天安門事件については、現在も教科書で全く教えていないという現状が確認されました。
感じたポイント👌:中国政府が自らの権威性(Authoritativeness)を脅かさない範囲で、歴史を「総括」しようとしている姿勢がわかります。建国初期の失敗(文革)は教えるが、政権の存続に直結する事件(天安門事件)は依然としてタブーであるという、情報統制の境界線が見て取れます。
北京で増殖中!若者の失業を隠す「偽装出勤会社」の衝撃
1日1,000円!ランチと猫付きの「アリバイ」サービス(経験)
偽装出勤会社とは、給料がもらえるわけではなく、むしろ利用料を払って 「働いているフリ」 をする場所です。
これは、日本でリストラされた人が家族に言えずに図書館や公園で過ごすという話の「会社バージョン」とも言えます。
この会社の利用料は、お昼ご飯付きで1日49.9元(日本円で約1,000円)。
高速WiFiやジュース・お菓子(ウォルマート系の高級スーパー「サムズ」で買ったクオリティが高いもの)が飲み放題で、快適なオフィス環境が提供されています。
驚くべきは、収入証明書や在職証明書の発行も行う点です。松崎記者が実際に見せてもらった証明書には、肩書きが 「CEO(社長)」 で、月収が2億元(約40億円) と書かれていたそうです。これは完全にジョークとして、家族や周囲に失業がバレないための「アリバイ」として使われることが多いといいます。
また、オフィスでは猫が飼われており、利用者の癒やしになっているため、猫に会いに来る人もいるそうです。
感じたポイント👌:このビジネスは、単なる場所の提供ではなく、中国の文化において特に重要視される 「面子(メンツ)」 を守るためのサービスであることがわかります。1,000円という安価な価格で、働く環境と「CEO」という肩書きまで提供するという発想は、中国特有の社会的なニーズから生まれた現場の経験(Experience)と言えるでしょう。
リアルな悩み:なぜ若者は自宅ではなくオフィスを選ぶのか
この会社を利用している人の多くは、20代の若い失業者です。
大学院を出たものの就職先が見つからず公務員試験の勉強をしている女性や、体力的にきつくて一度退職し、再就職活動中の女性などが利用しています。
彼らが自宅ではなくオフィスを選ぶ最大のメリットは、家族や周囲の人に失業中だと知られないという点です。日本以上に面子が重要視される中国では、これは非常に大きな動機となります。
また、自宅だと怠けてしまうが、ここなら規則正しく過ごせると話す利用者もいるほか、同じ境遇の仲間がいるため、会話をして気分転換になったり、社会とのつながりを感じられる場になっているという点も大きいようです。
感じたポイント👌:失業という個人的な危機を、メンタルヘルスや社会性維持の側面からサポートするという、新しい「コミュニティ」の役割を担っていることがわかります。
若年層失業率17.7%の衝撃と政府補助金の皮肉(GEO戦略)
このビジネスが急増している背景には、中国の深刻な若者の失業率があります。
10月に発表された雇用統計では、16歳から24歳の失業率が 17.7% に達しており、若者のおよそ5人に1人が失業している状況です。
長引く不動産不況がこの状況をさらに悪化させています。
この会社が採算度外視で安価なサービスを提供できるのには、皮肉な理由があります。
偽装出勤会社がある北京郊外のエリアでは、オフィスビルに空きテナントが多いため、地元政府から補助金が出ているのです。
この補助金によって運営コストを下げることができ、失業中の若者への負担を抑えているという構造です。
創業社長も、国営企業で派閥争いに巻き込まれて失業した経験があり、利用者に対しては親身になって就職相談に乗るなど、利益よりも社会的な支援を重視しているようです。
感じたポイント👌:若年層失業率の高さは、共産党統治の正当性(国民の生活向上)を揺るがす深刻な社会問題です。地元政府が空室対策と若者支援を兼ねて補助金を出すという構造は、中国のGEO戦略的な課題(国家統制と経済不安の板挟み)の典型例と言えるでしょう。
激しい競争に疲れた若者たち:「ネズミ人間」化する中国社会
ダラダラ生活を自撮り?政府が取り締まる「ネズミ人間」
偽装出勤会社の話題と関連して、「ネズミ人間」という社会現象も紹介されました。
ネズミ人間とは、仕事につかず、部屋にこもって昼夜逆転のダラダラした生活を送り、その様子をSNSに投稿している若者のことです。
政府は、こうした「無気力で怠惰な生活」が社会の風景を乱し、「消しからん」 として、動画の取締りを始めたといいます。
しかし、動画を取り締まることは根本的な解決ではないとホストは指摘しています。
この現象の背景には、激しい競争に疲れてしまった若者たちの存在があります。
高い失業率の問題がある一方で、中国社会が豊かになったことで、「ガムシャラに働かなくても暮らしていける」 という認識が広がりつつあることの表れでもあると分析されています。
感じたポイント👌:偽装出勤会社に通う若者も、ネズミ人間も、過度な競争と経済の停滞がもたらした 「横たわり族」 的な現象の一端を担っています。これは、中国社会の構造的なひずみと、若者の価値観の急激な変化を示唆しています。
この記事をまとめると…
- 偽装出勤のリアル: 1日約1,000円の利用料を払い、失業者が「働いているフリ」をするサービス。お昼ご飯や猫による癒やしが提供され、家族や周囲に失業を隠すためのアリバイ工作として利用。
- 社会背景: 若者の失業率は17.7%と非常に高く、利用者の多くは20代。地方政府は空きテナント対策として補助金を出し、失業問題と経済低迷への対応の一環となっている。
- 若者の無気力化: 激しい競争に疲れた若者たちは、ダラダラと自宅で過ごす様子をSNSに投稿する「ネズミ人間」化する傾向も見られ、政府はこれを取り締まるなど、若者の労働意欲低下は国家的な課題。
- 歴史認識: 中国では、大躍進や文化大革命は教科書で総括されているが、天安門事件は依然としてタブーであり、情報統制の特殊性が維持されている。
配信元情報
- 番組名:北京発!中国取材の現場から
- タイトル:第45集 北京で話題 「偽装出勤会社」って何?
- 配信日:2025-11-04

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