お米の価格高騰、家計を直撃していますよね。政府の備蓄米放出で一時的に下がったものの、まだまだ油断できません。
食料自給率が高いとは言えない日本で、主食であるお米の生産力をどう確保していくのかは、私たち全員が直面する大きな課題です。
今回の配信では、農業経済学の専門家が「今すぐ米を作るべき理由」と、1970年から続く生産調整の呪縛を解き放つための「稲作改革の切り札」を徹底解説!
この記事を読めば、日本の農業が直面する課題と未来への道筋がスッキリわかりますよ。
今回の配信内容🎧
今回の配信では、日本の深刻なコメ不足と価格高騰を背景に、農業経済学の専門家(宮城大学 大泉和之名誉教授)が訴える「コメ増産」の必要性を解説します。
1970年代から続く生産調整(減反政策)の構造的な問題を掘り下げ、収穫量増加によるコスト削減と、海外輸出を通じた成長戦略の可能性に焦点を当てます。
さらに、高齢化による離農が進む中での農地の大規模化や、社員の年収1000万円を目指すなど、若手担い手の育成といった人材確保のための具体的な取り組みについても深掘りします。
日本の稲作は「コメが足りない」のに「作れない」矛盾
現在、日本の米の価格は高止まりが続いており、多くの消費者が家計への影響を感じています。
食料自給率が低い日本において、主食である米の生産力が今後さらに重要になることは明らかです。
しかし、日本の稲作は長らく、「作りたいのに自由に作れない」という矛盾を抱えてきました。
農業経済学が専門の宮城大学 大泉和之名誉教授は、この現状に対して「もっと米を作るべき」だと強く指摘しています。
専門家が訴える「価格維持より収穫量増加」のメリット
大泉教授が、今の状況で増産を訴えるのには明確な経済的な理由があります。
かつて、米を作りすぎてしまうと市場価格が安くなりすぎるのを防ぐため、1970年以降から生産調整政策(いわゆる減反政策)が行われるようになりました。
この政策の目的は、生産者の所得を維持することにありました。
しかし、大泉教授は、生産者の所得向上を考えるなら、「米の価格が下がっても収穫量を増やせばよい」と逆転の発想を提案します。
これは、収穫量を増やすことによって、米1単位あたりの生産コストが下がるためです。
コストを下げて国内で消費しきれない分が生産できたら、それは輸出する形が良いと主張されています。
これは、市場を国内に限定せず、グローバルに展開することで、生産者全体の利益を最大化するという、完全にビジネス的な発想の転換です。
ここがポイント👌
大泉教授は、長年の生産調整政策を転換し、収穫量を増やして生産コストを下げ、
国内消費しきれない分は輸出に回すことで、生産者の所得向上と食料安全保障を両立させるべきだと指摘しています。
コメの生産調整政策と価格高騰の構造的課題を分析。
日経エコノミクスパネル|コメ生産と減反政策の見直し
稲作の成長を阻む「生産調整」という半世紀の呪縛
なぜこれまで、米を「輸出」するという考えにならなかったのでしょうか?
大泉教授が問題視するのは、「広大な農地がない日本は、アメリカやオーストラリアのように競争しても負ける」諦めの考えがある点です。
しかし、世界に目を向けてみると、必ずしも状況はネガティブではありません。
世界では、気候変動や地政学的な問題などから米の生産量が減っています。
この状況こそが、日本米が海外市場に打って出る最大のチャンスだと言えます。
実際、日本のお米の価値は世界で評価されており、中国では日本米が(国内よりも)高値で取引される場合もあることが確認されています。
日本には、単に米の量を増やすだけでなく、その高い品質やブランド力を活かす「高付加価値戦略」の余地があるのです。
世界はコメ不足!日本米の価値と輸出のチャンス
技術的な視点から見ても、日本が持つポテンシャルは非常に高いです。
配信では、人さえいれば計算上、現在の生産量の倍の1400万トンを作ることも可能だと述べられています。
この生産能力があるにもかかわらず、過去の価格維持を目的とした政策(生産調整)が、
産業全体を縮小市場に閉じ込め、競争力の強化を阻害してきたという構造があります。
これは、エネルギー分野で、政府の買取価格が安すぎて(政策の失敗で)洋上風力発電の事業採算性が維持できなくなり、
三菱商事の撤退を招いた問題と、本質的に共通する構造的な課題と言えます。
コメ作りは、現状「作りたいのに生産調整で自由に作れない」という問題が背景にあり、それではビジネス感覚が育たない。
農業には、今、この閉塞感を打破するための「発想の転換が迫られている」のです。
ここがポイント👌
世界的な米生産量の減少は日本米が海外市場に打って出るチャンスであり、
中国などでは日本米が高値で取引されるため、日本の稲作には生産調整を辞めて競争力を高める発想の転換が必要です。
日本米の輸出戦略と中国市場での高値取引事例。
https://www.maff.go.jp/j/export/rice/value.html世界的な米不足と日本の生産力に関する統計資料。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kikaku/nenji/index.html洋上風力発電の採算性と三菱商事の撤退報道。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2025A0S5A920C2000004/
競争力を取り戻すための「農地の大規模化」と人材戦略
日本の稲作が抱えるもう一つの大きな課題は、作り手不足です。
現在、農家は全国で55万戸ありますが、その8割を兼業農家が占めています。
そして、この兼業農家の多くは高齢化しており、いずれ離農していく運命にあります。
この人材と農地の問題を解決するため、大泉教授は、離農する人の農地を集約して大規模化し、
それを若い担い手に任せていくことが重要だと提言しています。
農地を大規模化すれば、機械化や効率化が進み、生産コストのさらなる削減に繋がります。
これにより、農業を趣味や兼業ではなく、しっかりとビジネスとして成立させる道が開けます。
若者が魅力を感じる「農業のビジネス化」
この改革は、若い世代が農業に魅力を感じるための土壌づくりにも直結します。
最近では、農業を法人化し、社員1人の年収1000万円を目指す企業が出てきています。
また、農業をビジネスとして捉えるスタートアップや企業も増えてきており、
働き方改革に力を入れて労働時間の管理を徹底し、若年層にも魅力的な職場環境を目指す企業も出てきています。
これらの動きは、従来の「きつい、汚い、稼げない」といったネガティブなイメージを払拭し、
農業をハイリターンなビジネスチャンスに変えようとする試みです。
農業が、「作っても売れない」状況から脱却し、自由に競争できる市場へと変われば、若い世代はさらに魅力を感じるはずです。
ここがポイント👌
農業の未来は作り手不足の解消にかかっており、離農農地の集約・大規模化を進めることで、
法人化による年収1000万円を目指すなど、若年層に魅力的な「農業のビジネス化」を加速させることが求められています。
編集部が深掘り:食料安全保障と持続可能性
今回のコメ不足の議論は、単なる経済問題ではなく、食料安全保障という根幹に関わる問題です。
食料の確保という観点では、マグロやウナギといった水産資源の確保についても、
国際的な規制や異常気象のリスクが課題となっています。
マグロの完全養殖はコストが高いにもかかわらず、一度撤退すると再開に10年はかかるため、
食料安全保障のためにもその手段を維持しておくことが大事だと専門家は指摘しています。
コメについても同様です。天然資源(天候任せの生産)に頼り続けるのは持続可能とは言えず、
異常気象などの影響を避けるためにも、国内の生産力を確保しておく必要があります。
日本が技術で勝負する他の産業との共通点
コメの増産と輸出戦略は、日本がグローバル競争で優位性を築こうとしている他の産業の戦略とも共通しています。
例えば、EV(電気自動車)市場では、日本勢は中国勢にバッテリーシェアで遅れをとっていますが、
全固体電池という次世代技術や、高性能な電磁鋼板といった「虎の子の技術」を切り札としています。
日本のコメも、単に量を増やすだけでなく、その高い「価値」と、それを安定して供給できる「技術力」を武器に、
海外市場に打って出ることが、真の稲作改革となるでしょう。
日本は、市場が縮小していく中でインフラや産業をどう維持していくかという、構造的な課題に直面しています。
コメ市場が、価格維持という過去の原則から脱却し、成長市場へと変われるかどうかが、日本の農業の未来を占う試金石となります。
ここがポイント👌
食料安全保障の観点からも、コメの生産能力を維持することは重要であり、
技術力と高品質を武器にグローバルに競争する姿勢は、EV部品などの他産業の成長戦略と共通しています。
農業法人化による高収益モデルと若手担い手育成事例。
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/ninaite/食料安全保障と水産資源の養殖維持に関する専門家の見解。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/yugyo/y_kanzen/index.htmlEV部品の競争力と日本の技術戦略(電磁鋼板・全固体電池)。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07003/
この記事をまとめると…
日本の深刻なコメ不足を背景に、農業経済学の専門家は、1970年以降続いてきた生産調整を転換し、
「価格維持よりも収穫量を増やして輸出すべき」だと提言しています。
この戦略は、収穫量増加による生産コストの削減と、世界的に米生産量が減る中での日本米の輸出チャンスを狙うものです。
一方で、農家の高齢化と離農という課題に対しては、農地の大規模化と、年収1000万円を目指すなど農業のビジネス化を通じて、
若い担い手を確保することが急務とされています。
日本の稲作改革は、過去の原則にとらわれず、グローバルな視点と持続可能性を両立させる発想の転換が求められています。
配信元情報
- 番組名:Minutes by NIKKEI × NIKKEI PODCAST
- タイトル:「コメ不足、価格維持より増産を」_専門家が訴える稲作改革3分解説
- 配信日:2025-07-16


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